「さぁ到着だ…ここまでの長旅御苦労だったね。」

あの後、途中浜辺に寄って貰い服を取りに帰り固まったままの子狐と共に学園に向かっていたのだが…

「あ、ハイ…って痛いってんだろお前。」

「グギュ!?キューン…。」

飛行中、潮風と太陽の光ですっかり乾かされていた服を着込むとほぼ同時に子狐は服の中にもぐりこんでしまった。
それだけならまだしも学園長がカミヤの方を向くたびに服の中で爪を立てて震えるのでその度に会話を中断していたのだ。

「フフ…気にしてないよ、昔から動物には嫌われるんだ。」

「ハァ…。」

なんとなく飼い主のような状態になっているカミヤにとって、この状況はあまり居心地のいいものではなかった。
乗っていた黒龍から降り、なんとか子狐を肩に乗せると執務室だという部屋へ行くため学園長の後を付いていく。
通った道は学園長しか普段使われないのか一本道で暗く、狭い。
全面石造りの廊下は見上げると等間隔で天窓が開けられ、蝋燭しかない中には月と太陽の明かりが真上に来るよう設計されている。
その幻想的なまでの造りにカミヤが感心していると、両開きの小さな扉の前で、学園長は足を止めた。

「ここだ…」

「意外と小さいですね…。」

「裏口だからね…表からだと遠回りだし…と言っても部外者を連れてくるのは初めてかな?」

クスクスと小さく笑う学園長の様子は綺麗だがどこか妖しい。
その小さな扉に彫られた龍の彫刻、その眼から足先までを指でなぞるとガチャリと扉の鍵が開く音がした。

「さぁおいで?ここでの話をしよう。」