「うわ…降ってきちゃったか。」

会計を済ませ、店を出ると辺りはもう薄暗くなっていた。
ポツポツとだが雨が降っている。
春と夏の間の季節に降る夕立ちは、少量とはいえ冷たい。

「大丈夫?傘ならあるけど使う?」

店の前で立ち止まっている事に気付いた蛍が声を掛ける。

「あぁありがとう、ゴメンけど使わせてもらうわ。」

黄色の、少し女の子向けな明るい傘を受け取るとさっき買ったばかりの服の襟もとを直して傘の帆を立てる。

「じゃ…また学校で。」

ひらひらと手を振りながら見送る蛍に笑顔で返すとゆっくりと西へ沈む太陽を背にカミヤは家路へと急いだ。
濡れた地面を掛ける音が聞こえなくなった頃、蛍も店の中へと戻る。
店の奥にあるキッチンカウンターからお茶を入れると近くにあったマグカップに注ぐ。
淡い湯気が登り立つお茶をすすりながら蛍は今日あった出来事、そして昨日までの出来事を思い返していた。

「…カミヤ…特待生に…見えないよね。」

ニュースで流れた情報と、あまりにもかけ離れた特待生の転入生。
緊張の連続な学園生活を送る中、久しぶりにホッとした時間を過ごした蛍はそのまま目を閉じると未だ店内を流れる音楽に浸るのだった。