「あ……れ…?」

何故…何故こんな事に気づかず、一片の疑問も持たずこの世界で生活をしていたのだろう?
今自分がいる場所、それが自分自身元いた世界ではない事は明白だった。
ならば何故?自分が最も使い慣れている母国の言葉がそのまま使える?
自分がいた世界では国境一つ跨いだだけで、下手をすれば国内にいても様々な言語が混ざり合っていた。
なのにこの世界では国どころか種族さえバラバラだというのに同じ言語…それも自分が元いた世界と同じ言葉を使っている。

「は…?え?…なんで?」

残っていた記憶と来てからの記憶を照らし合わせ、その意味を深く理解すればするほど訳が解らなくなる。
いつの間にか顔は青ざめ、体が小刻みに震える。
病み上がりで体を支配していた倦怠感などいつの間にか吹っ飛んでいた。

「なんで…なんで気がつかなかった!?」

他に誰もいない病室で思わず叫ぶ。
興奮を抑えられない。
人は処理しきれない情報や、あまりにも衝撃的な出来事に出くわすと逆に高揚するというがおそらくそれなのだろう。
自分では気付かなかったが、カミヤはこの時笑っていた。
そして再び理解できない文字を見ながら1人思考する。

「あの時…最初に学園長に会って、何一つ意識しないまま俺は喋ったよな?」

それは何故か?
と、いうよりも……

「…今俺が喋っているのは本当に『俺の世界の言葉』なのか…?」