「………。」

背表紙の文字が見える場所まで近づいたところで、男は再び茫然と立ち尽くす。
混乱、動揺、懐疑?目の前にある書物を手に取ってページを開くもそこに書かれているものは先ほど自分の持ち物に書いてあった文字とは全く違う…というか見たことも無いような言語で書かれていた。

「なんだ…?これ…。」

ここが実は外国だとか、まだ自分の記憶が戻っていないとか、そんなレベルでは無い。
目の前の書物に書かれている文字は自らの記憶の中のどれとも違い、またどれにも似て無いのだ。
それはまるで…。

「…ここは本当に俺が知っている世界なのか?」

途端に襲う震えと吐き気、答えの出ない疑問と共に体は目に見えない不安とストレスで悲鳴を上げようとするが肉体はそれを許さなかった。
自分の事のみの記憶を失い、周りに助けてくれる人も見つからず、ようやく見つけた文明の欠片は自分の知っている物とは全く違う…まだあどけなさの残るような青年にとって、これはどれほど辛い事なのだろうか?
口元を手で押さえながらも別の本を探す。