ギィイイ…っと木造独特の軋む音が静かに響く。
室内に入ると予想通り中に人はいなかったのだがすこし不思議な感じだった。
まるでつい最近まで人がいたような、もしくは定期的に使っているかのような部屋の造りだったのだ。
本棚には埃にまみれているがきちんと整理された状態で書物が並び、ランプにはまだ芯が残っている。
「キュッキュ!」
「あ、コラ勝手に…。」
ピョンと飛び跳ねて中に入るのを見て釣られてカミヤも部屋に入る。
幸いにもまだ明るかったので明かりを点ける必要はなさそうだ。
白く靄の掛った窓を開け、室内に風を通すとカミヤはそのまま椅子へ座る。
そして静かに目を閉じた、形だけでも周囲から隔離され、守られている空間でただ一人…。
「キュ~…?」
そのまま眠ったように動きを止めてしまったカミヤを見て、子狐は椅子の周りをうろうろ回る。
五分ほどの静寂の後、カミヤは再び眼を開いた。
「…やっぱり駄目か。」
ハァ…とため息を吐いてから足元にいた狐を抱き上げる。
自分が何者なのか?そのたった一つの疑問は解決する事なく…。
ふと本棚に眼をやるとその疑問が更に深まるような事態に直面することとなった。

