どんな人にもコンプレックスは存在する。
俺のコンプレックスは隣の部屋で雄叫びを上げていた。
「うらぁぁぁぁぁ!」
その声は同時に耳元からも聞こえてくる。
「右!」
今度は俺が叫ぶ。

目の前の少女は右に飛ぶ。
そのままスキルを発動した。

その隙に自分は札を取り出して技を放つ。

階段の下からはお風呂に入りなさいと母親の声がする。
「泉、風呂。」
「オレ様が活躍するいい所!ちょい待ち!」

そして彼の必殺技で敵は消滅した。
「行ってくる!」
そう言ってログアウトしていった。
静かになったフィールドに残された自分はコーヒーを啜る。

ふと、いつから甘い物を摂取しなくなったのか考えた。
昔は虫歯になるんじゃないかというぐらい食べてたな…。
そう思ったら久々に甘い物で体を満たしたくなり、ペッパーを放置して隣の部屋へ。

寂しそうな目をすんなよ。
すぐ戻ってくるから。
なんて心の中で呟いた。

お隣さんの部屋に移動する。
壁を隔てた、階段を昇ってすぐの場所だ。
そこに大概甘い物が常備してあるのは知っている。
「…チョコ。」
お目当てのチョコは箪笥の横に引っ掛かっている袋の中だ。

チョコを引っ掴んで出ようとした時、机の上のお姫様が俺を睨んでいた。
「…悪いな。さっき美味しい場面譲ったろ?」