あたしが身に着けている

装飾のないのっぺりした服に比べ、

そのブタが着ているものは

虹色の刺繍をあしらった豪奢な、

質の良さそうなスーツ。



スーツ・・・だよね。



「ぶひっ!ぶひぶひぶひっ!」


ブタが鳴くたびに、口の周りの柔らかな毛が、

けいれんしたように震えている。



「ぶひひひ、ぶひ。ぶぶひぶひ」


ブタは何やら鳴き叫んだあと、

ひとり言のように静かに鳴いた。



おかしい子、

まるで喋っているみたい。



「あたし、豚に真珠、

 なんて言葉なら知ってるけど、

 豚にスーツ、なんて初めてよ」


あたしはついに笑い出しながら、

そんな冗談をつぶやいた。



「ぶびぁっ!ぶひっ!ぶぶひん!!ぶひっ!」


その瞬間、ブタの黒真珠のような瞳が光って、

次には顔を赤く染め上げた。



え?怒ったの?



「あたしの言ってること、わかるの?」


「ぶひんっ!」


ブタはくるりと後ろを向いて、

これは四足で走り出してしまった。


扉の向こうは、下りの階段が続いている・・・。


あたしは、現実というものをすっかり忘れて、

その階段への一歩を踏み出した。