そう。
これは囮捜査だったのだ。俺と詩織ちゃんがクロちゃんを狩るための囮捜査。
「さーてクロちゃんが出てきたわよ!」
倒れた男の体から黒いモヤモヤが出てきて、バスケットボール位の大きさの黒い球体になった。
「いつ見ても気味が悪いね。」
「そう?私はもう慣れたけど。」
「あんな目に合ってるからねぇ。早くやっつけて欲しいなぁ。」
「分かってるわよ。」
黒い球体の中心から横にギザギザの切れ目が表れ、そこが裂けて大きな口になる。
詩織ちゃんは鉄パイプを投げ捨て予め用意していた竹刀に持ち変えた。
「そっちの方が似合ってるよ。」
俺はそう言った。
彼女は竹刀を構えてクロちゃんにジリジリと近付き間合いを詰めていく。
クロちゃんは口を大きく開き牙を剥き出して詩織ちゃんに襲いかかる。
詩織ちゃんはクロちゃんの大きく開いた口を目掛けて竹刀で横に真っ二つに切った。
クロちゃんは声にならない叫び声をあげながら、黒い煙りとなって夜空に消えた。
俺は戦いを終えた詩織ちゃんに駆け寄り、
「お疲れ様。」
と声をかける。
「また、空が汚れたね。」
詩織ちゃんはクロちゃんが消えていった夜空を見上げながら一人ごとのように呟く。
悲しそうでもあり、辛そうでもあり、切なそうでもある彼女の表情に俺は時間を忘れて見とれていた。
こうやって詩織ちゃんを見ていると初めて出会った日の事が鮮明に頭に浮かぶ。