ばかでかいクロちゃんが俺に向かってニタリと笑っている。
「詩織ちゃんはまだあの中にいるのかよっ。」
俺が何とかしなきゃ…。
そう、思うと絶望的な気分になる。
クロちゃんはでかい口をあんぐりと開け、ゆったりと俺に迫ってくる。
俺はクロちゃんを睨みながら後ろに下がる。そのまま下がり続けると何かを踏んだ。その何かの正体を確かめるためにほんの一瞬だけ足元に視線を向けた。
「…!」
俺は詩織ちゃんの木刀を踏んでいた。
俺は木刀を素早く拾い上げクロちゃんに向けて構える。
その木刀は女の子が持つには似合わないくらいずっしりと思い。
頭の中には詩織ちゃんが木刀を構える姿が浮かんでいる。
「詩織ちゃん…俺、できるかな?何言ってんだ俺。やるって決めたばっかりだったよな。」
へへっと笑う。
俺は頭の中でクロちゃんと戦う詩織ちゃんと同じ様に、構え、走り、斬った。
意外と重い手応え。
ばかでかいクロちゃんの下の方、人間の顔で言うところの下唇に切れ目が入った。
クロちゃんは全く動じること無く口を開けると、足元で懸命に木刀を振っている俺に向かってまるでボールが転がるように襲いかかってくる。
クロちゃんがコンクリートの足元に倒れ込むと、ズドンという音と震動が響き渡った。
俺はがむしゃらに走ってクロちゃんの背後に回り込みなんとか避けた。
命からがらだ。
あちこち痛いし。
「くそうっ!」
がむしゃらに木刀で切りつけた。
切れ目を両手で掴み引き裂いた。
クロちゃんの中には黒いモヤモヤが渦巻いていて、見てるだけで気分が悪くなる。
右手を肩まで突っ込んで中を探った。
「詩織ちゃん!俺の手を掴んで!」
すると、人の手が俺の腕を掴んだ。死んでるみたいに冷たいけど確かに人の手の感触だ。
「詩織ちゃん!?」
ぐっ!っとその手に引っ張られる。
踏ん張ったけど引っ張られる力の方が強く、俺はクロちゃんの中に引き込まれ頭からクロちゃんの中に落ちた。
「いってぇー…こんなのばっかり…。」
頭を抱えながら立ち上がる。
「詩織ちゃんっ!」
少し間を開けて詩織ちゃんが俺の方を向いて立っていた。