これは夢なんだ。

悪い夢なんだ。

すぐに覚めるさ。

そう願って俺は光の中に飛び込んだ。
「っ…！？」
どっ！と全身に風圧がかかった。
悪夢から解放されると思っていたのに、飛び込んだ次の瞬間から暗闇の中を落下。ヘリコプターからのスカイダイビングみたいに。だけどそれとは違って景色は全然良く無くて、三百六十度暗闇の中をただひたすらに落ちていた。
音が無くて変な感じ。
一体これはいつまで続くんだろう？
詩織ちゃんも落ちてるのかな？
永遠と落ちる中で俺はようやくこの状態が何なのかを分かった気がした。確信じゃないけど、これは多分俺の心の中なんだろうと思った。
人生っていう真っ暗闇を希望の光無しでただひたすらに落ちている。
わけも分からずに進んでいく毎日。
自分が将来どうなるかなんて分からない。
だから常に救いを求めてた。
助けて欲しかった。
具体的何を助けて欲しいかは分からない。
曖昧だけど、助けて欲しい。
曖昧だから助けて欲しい。
意味が…
「欲しいんだ。」
フワリと目に見えない何かに身体全体が包まれた。
そのまま真っ黒な床、地面にゆったりと着地した。
真っ黒闇が音も無くざわつき始めた。
ぐにぃと暗闇の世界が歪み始め、至るところに大小様々なクロちゃんの口がにぃと笑うように浮かび上がる。
俺は走り出した。
「今行くから…待ってろよ。」
前に進むしか無いんだ。
直ぐ目の前に大人一人だったら楽に丸呑みできる口が現れた。
今までのとは比べ物にならない。
ニィと少しだけ開いた口に無理やり手を突っ込んで力一杯持ち上げた。
「そのでけぇ口を開けやがれ！」
外の明かりが入ってくる。ギザギザの間から外も見える。
さっきの屋上だ。
どうやらクロちゃんの中で夢を見ていたらしい。
俺はそのまま口をこじ開け、外に転がり出た。