アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

「えっと、つまりおっきいクロちゃんは他のクロちゃんより沢山のモヤモヤが集まってるってこと?」
「そうなるわね。」
「それにしても何で皆にはクロちゃんが見えないんだろね?」
詩織ちゃんは一瞬足を止め、
「今日はよく喋るわね?滝本君。」
「詩織ちゃんもね。」
俺は爽やかな笑顔で言う。
詩織ちゃんは俺の言葉が聞こえなかったかのように歩き出す。
あれっ!?というような空振り感。
俺は急いで詩織ちゃんの前に回り込む。
「い、いや!これから一緒に戦うわけだから少しでもクロちゃんの事を知っておこうと思ってさっ!」
が、詩織ちゃんは回れ右。
「…。」
「あ、ちょっと…。俺、なんか悪いこと言った?」
「…。」
詩織ちゃんは何も言わずに来た道を歩き出す。
その態度に少し腹がたった俺は詩織ちゃんの右肩を軽く掴んだ。
「詩織ちゃん!?」
その肩は小刻みに震えていた。
さっきまで腹がたっていたのに急に心配になる。
また急に泣き出されたりしたら困る。
「詩織…ちゃん?」
「…ぷっ!」
詩織ちゃんはクスクスと笑い始めた。
「!?」
俺には何が何だか分からない。
「だって本当に心配そうな顔するんだもん。」
詩織ちゃんはポカンと口を開けている俺に向かって笑いながら言う。
「滝本君って面白いね。」
何だかよく分からないけど、どうやら詩織ちゃんは機嫌が悪くなったわけじゃ無いようだ。
「そう…かな?」
「うん。面白いよ。からかったみたいでごめんね。えっと今日の狩だっけ?」
俺は軽く頷いた。
「今日は終わりにしましょ。また明日の夜に今日とおんなじ時間に待ち合わせよ。場所は…、」
「公園?」
詩織ちゃんは少しだけ考えると、
「うん。そうだね。」
と、頷いた。
「時間も遅いし家まで送るよ。」
彼女は首を横に振ると、
「ここからだと遠いから、いいよ。真っ直ぐ帰って。」
そう言って、バイバイと手を振ると薄暗い街灯の中を歩いて行ってしまった。
詩織ちゃんの表情がほんの一瞬だけ曇ったように見えたのは気のせいだろうか?