アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

男に殴られた時に地面に落ちたビニール袋を拾い上げ、中からカップアイスとスプーンを取り出して、詩織ちゃんに渡そうとした。
「詩織ちゃん!アイス。」
「え?何?」
詩織ちゃんはきょとんとした表情で俺とアイスを交互に見る。
「いや、だから疲れた体には甘いものでしょ?だからアイス。」
詩織ちゃんはビニール袋に入った棒アイスをチラと見るとそれを指差し、
「アタシそっちの方がいい。」


詩織ちゃんと俺はアイスを食べながら夜道を歩いていた。
詩織ちゃんはを竹刀がいれてある布製の袋を左手に持ち、右手に棒アイスを握っている。買ってからしばらく経っているせいか、微妙な暑さのせいか、詩織ちゃんのアイスは溶けだしていて食べるのにちょっと苦労しているみたいだ。
俺はと言えばすでに液体になったバニラアイスを啜っている。
「今日の狩りはこれで終わり?」
「そうね。まぁ滝本君は初日だし帰ってもいいわよ。」
どうやら詩織ちゃんはこの後も狩りを続けるみたいだ。
「詩織ちゃんがやるなら俺もやるよ。」
詩織ちゃんのアイスが地面にぼとりと音をたてて落ちた。
「やる気があるなら良いんだけど。こうやって歩いてれば、また一体ぐらい出て来るでしょ。」
「それじゃあ、俺が囮になって見つけてこよっか?」
「あれは…まだ完全に安全じゃないからやらないわ。さっき殴られたでしょ?」
そして、詩織ちゃんは黙ってしまう。
こういう微妙な空気は苦手だ。
そこで、俺は切り出す。
「あ、あのさ!クロちゃんって一体何なの?動物とかじゃ無いってことは分かるんだけど。」
詩織ちゃんはちょっと面倒臭そうな顔で俺を見る。
「クロちゃんの事、説明してなかったっけ?」
「えっと…多分…。」
すると詩織ちゃんはうーん。と唸る。考えをまとめているようにも見えるし、面倒臭そうにも見える。
「私もよく分かんない。けど、今まで戦って感じた事を言えば…。」
俺はうん。と相づちを打つ。
「クロちゃんは人の怒りとか憎しみとか、そういったクローいモヤモヤした感情がいっぱい集まったものだと思うの。」
俺は再び頷く。
「こういう経験無い?ムカついてたけど、暫く経ってから冷静に考たらそのムカつきがどっか行っちゃったとか。朝起きたら別に大したことじゃなかったとか。」