アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

そこに詩織ちゃんが現れ、木刀で男を一撃。
「かはぁっ。」
男は地面に横に倒れる。
「良く頑張ったわね。」
詩織ちゃんはそう言って手を差し伸べてくれた。
倒れたのは俺じゃ無くて、殴りかかってきた男の方だった。
「もうちょっと早く助けて欲しかったなぁ。」
俺は彼女の手を握って立ちがった。
「仕方無いじゃない。コイツが本当にクロちゃんに取り付かれてるか分かんなかったし。」
「え?じゃあもしクロちゃんと全然関係無かったらどうしてたわけ?」
「んー…話し合いで解決?」
「いやいやいや…解決?じゃなくてさぁ!」
と、詩織ちゃんは気合いの入った声で俺に注意を促した。
「さーて!クロちゃんが出てきたわよ!」
俺の疑問は呆気なくかきけされた。
見ると倒れた男の体から黒いモヤモヤが立ち上り球体を型どっている。
一番最初に見たクロちゃんより若干小さい。
「いつ見ても気味が悪いね。」
「そう?私はもう慣れたけど。」
「そりゃ詩織ちゃんは何度も戦ってるわけだし。まぁ俺はあんな目に合ってるからねぇ。早くやっつけて欲しいなぁ。」
「はいはい。」
黒い球体の中心から横にギザギザの切れ目が表れ、そこが裂けて大きな口になる。
詩織ちゃんは木刀を構えてクロちゃんにジリジリと近付き間合いを詰めていく。
クロちゃんは口を大きく開き牙を剥き出して詩織ちゃんに襲いかかる。
詩織ちゃんはクロちゃんの大きく開いた口から木刀で横に真っ二つに切った。
クロちゃんは声にならない叫び声をあげながら、黒い煙りとなって夜空に消えた。
僕は戦いを終えた詩織ちゃんに駆け寄り、
「お疲れ様。」
と声をかける。
「また、空が汚れたね。」
詩織ちゃんはクロちゃんが消えていった夜空を見上げながら一人ごとのように呟く。
悲しそうでもあり、辛そうでもあり、切なそうでもある彼女の表情に僕は時間を忘れて見とれていた。
綺麗だな。と思って見ていた。
ふ、と我に帰る。
「そうだ!俺アイス買ってきたんだよね。戦って疲れた後は甘いものが良いって良く言うじゃん?」
自転車はコンビニに置いてきたものの、アイスの入ったビニール袋だけはしっかりと持ってきていたのだ。