詩織ちゃんとの約束は九時だ。
だけど俺は約束の三十分も前に来てしまったから、暇潰しに公園のブランコを必死こいて漕いでいた。
準備体操するつもりはなかったんだけど。
それにしてもデニムの後ろポケットにいれてあるペンチが気になる。いったい何に使うんだろう?でもまぁ言われた通りに用意はした。
九時きっかりに現れた詩織ちゃんに、俺は三十分前から来て待ってたんだ、やる気満々だろ。とアピールするわけ出はない。
待ち合わせに遅れないようにしたかったし、何より詩織ちゃんより早く来ることで誠意ってやつを見せたかったのだ。
それに詩織ちゃんは待ち合わせより早く来て待ってるタイプだと思うし、それで万が一俺が遅れでもしたらどんな文句を言われるか分かったもんじゃない。
「さてっと、もうそろそろかな?」
携帯の電波時計が午後八時五十五分を表示している。
が、予想に反して詩織ちゃんは現れない。
あんまり、早く来るとかそういうことは気にしないなんだろうか?
それとも、来る途中でクロちゃんに遭遇して、たたかっているのだろうか?
時刻は約束の九時を回る。
しかし、詩織ちゃんは現れない。
正義感の強そうな詩織ちゃんが待ち合わせに遅れることは無いだろう。
長い一分が過ぎ、二分三分四分五分と時間が経つにつれて、心配と不安感が高まる。
もしかして詩織ちゃんは待ち合わせに来ない気なのだろうか?俺に諦めさせるために。
それとも俺の忍耐力でも試してるのか?
どれにしてもこのまま黙って突っ立っている訳にはいかない。もしかしたら、何処かで俺の助けを待っているかもしれないし。
詩織ちゃんを捜そう!
「…。」
俺、何熱くなってんだよ?って思う。
詩織ちゃんが現れないって事は、俺がクロちゃんと関わることが無いようにしてくれたってことで、つまりは俺が危険なめに合わないように、遠ざけた。
ただそれだけのことだ。
ただそれだけのことだけど納得いかない。
「ずるいぜ。詩織ちゃん。」
俺は公園から走り出た。
詩織ちゃんを見つけるために。
が、
「キャッ!」
「うわっ!」
次の瞬間には目の前に突然現れた人とぶつかって地面に尻餅を着いていた。
同じく相手の方も尻餅を着いた。