「まぁ、それはさておき。精神的なものかもね」
誠さんがあたしを優しい瞳に映す。
誠さんの瞳に映れたことが奇跡みたいで、たまらなく嬉しい。
「精神的、ですか?」
「そう。理子ちゃんは初めての虫歯だったわけだし、すぐ悪くなっちゃうんじゃないかとか不安にならなかった?」
「そう、言われれば…」
歯磨きをしたときにたまたま鏡に見えた歯の溝の黒い点。
いくら歯ブラシで磨いても取れなくて。
虫歯ができちゃったんだ、って妙な不安に襲われた。
すぐに黒いのが大きくなる気がして。
「大丈夫。そんなすぐに進行したりはしないよ」
安心させる声にほっとした。
「そのおかげで会えたことだし、僕としてはラッキーだったけどね」
茶目っ気たっぷりに言われて、思わず笑った。
そうだよね。
言い換えれば、痛みがなかったらこんなに早くここには来なかったかもしれないし。
もっと遅くここに来ていたら誠さんはあたしを好きになってくれなかったかもしれない。
他の患者さんに恋してたかもしれない。
「…っ」
そう思ったらまた胸がぎゅっとなった。

