「……中等部の波川です」

ああ、そうか。
目の前のこの人の声か。

自分の名を告げ、納得。

しかしいい声だ。
声フェチの私には堪らんよ。

「波川…町の隠れた歌姫…なるほどな」


……歌姫?



「何ですか?それ…」

尋ねると、先輩は言う。

「下の名前、教えてくれれば教えてやる」

「ひなたです」

即答。

「じゃあひなた」

呼び捨てか。

「はい」

「お前だ」

先輩はそう言って私を指差す。

「は?」

「お前が歌姫だ」

「へ?」

何言ってんだこの人。な感じ全開で先輩を睨む。
スルーだけど。

「お前、いつもここでさっきみたいに歌ってんだろ?」

「?まぁ、そうですけど…」

「いつからだ?」

「去年の今頃くらい…」

「うん、ちょうどその頃。
ここ通り過ぎる時に、綺麗な歌声が聞こえるっていう噂が流れたんだ」

「噂…」

「ああ。真偽を確かめようと、俺の同級生達が隠れて歌声の主を…イヤホンをはめて小さな声で歌うお前を見た。
そしてその日からお前は町1番の歌姫っつーわけだ」

「………!」

開いた口が塞がらない。


影でひっそりと歌うのが好きなのに聞かれていただなんて。

嗚呼、そんなことがあっていいのか。


「そんときお前の名前は、町中に広がったよ」


嘘だ、嘘だと言ってくれ先輩。