「昨日―― そう、デパートに行ったんだけど、階段で……左足の火傷が痛かったから気にしてたら、捻っちゃったの」

「だったらこれも俺のせいだな」

「そんな事!千聖のせいじゃないよ」

 俯いたままで告げた言葉とは別に、未央は考えていた。

(千聖は回収屋の私の話は聞いてくれたのに、ここに居る私の話は聞いてくれない……)

「私がドジなだけ」

(回収屋の私には興味があって、傍に居る私の事なんて興味無い―― 興味……無いんだ)

 そう思うと何故か涙が出た。

 頬を伝ってポロポロと零れて落ちた。

『正直言うとあんたに興味を持ったんだ。できればもっと話しがしたい。あんたの事もっと知りたい――』

 優しい声だった。

 ここでは聞いたことの無い、穏やかな声だった。

 でもそれは未央に向けられたものではなかった。

(どうして涙が出るの?もしかして私―― もう一人の私に嫉妬してるの?千聖のことで?)

「どうした?そんなに痛いのか?」

 チラリとそれを見て千聖が訊いた。

「痛い。……悔しいくらい痛い」

「『悔しいくらい痛い』って――?わけ分かんないな。とにかく湿布するから」

 千聖は未央の右足に冷たい湿布薬を貼り付け、包帯をグルグル巻きにして足首を固定した。

「なるべく足は使うな―― と言ってもこれじゃ歩けないか」

 両足に白い包帯を巻かれた未央の姿にフッと笑う。

「学校へは響君に連れて行ってもらうんだな。きっと喜ぶ」

「うん、そうする」

 残った湿布を薬箱に片付けながら言った千聖に、未央は無理に微笑むとまた涙を拭った。

 それから千聖をじっと見つめた。

「千聖……優しいね」

「別に。火傷の原因を作ったのは俺だから、責任を感じてるだけだ」

「私にこんなふうに優しくしてくれるのは、責任感じてるからなの?それだけなの?」