「そうしたら部屋へ連れて行かれて――。ドアを開けたら、私のあの夢のドレスが現実の物となって目の前に立っていた。頭の中が真っ白になった。わけが分からなかった。私すぐに彼女に言ったわ。『どうして?』って。そうしたら彼女……」

『いいなって思ったからよ。いいじゃない、どうせあなたにはあのデザインを実際の物に作り出す技術がないんだから。それで私が作ってあげたの。だって可哀想でしょ?せっかくのデザインを、あのまま薄汚れたノートの中に眠らせておくなんて。これで日の目を見られるのよ。良かったじゃないの』

 裕子の友人は、そう答えて笑ったのだ。

 両手で顔を覆うと、祐子はその時の感情が蘇ったのかその場にうずくまってしまった。

 傍に座っていた犬が尻尾を振りながら、慰めようとでもするように彼女の手を舐めた。

「私、ショックで何も手につかなくなって……結局コンクールは諦めることにしたの」

「どうしてですか?元々はあなたのデザインなんだから、デザインが重なったって堂々と出品すればいいじゃないですか。それでもし問題が起きても、正しいのはあなたなんだから」

 祐子は涙を拭うと首を横に振った。

「そんな事したら大問題になって、彼女はもうこの仕事続けられなくなるわ。早く有名になりたい、表舞台に立ちたいって焦る気持ちは私にもあるから、彼女の気持ち解るから、だからそんな事出来ない。だけど、このまま放っておくわけにも――。だってそうでしょ?もしもあのデザインが認められたりしたら、彼女はきっと苦しむ。一生苦しむのよ。だからあなたに頼みたいの。回収されたってだけなら、しようと思えば言い逃れもできる。これからどうするべきか、彼女に自分で考えてほしいの」

 他人のデザインを平気で盗むような人なのだから、きっと苦しむ事は無い。

 行き詰ったら、きっとまた誰かのデザインを盗むのだ。

 未央はそう思ったが、敢えて祐子には言わなかった。

 それでもどうしても何か言いたくて口を開く。