「遅いな」

 呟いて、窓から外を覗き込む。

 商店街の賑やかなネオンが滲んで見える。

 いつの間にか外は雨になっていた。

「雨か……」

 ソファーに座り、コーヒーカップを手にする。

 時計に目をやり、そしてまた直ぐに立ち上がる。

「もう一時……」

 千聖はそうやって、いまだに戻らない未央を待っていた。

 多少遅くなる事はあっても、これほどまで遅い事は今まで一度として無かったのだから、心配になるのは当然だ。

 それに今夜の未央の場合は、友達と遊びに行ったなどというものとは話しが違う。

 回収先で手間取っているのか……

 それとも――

「行ってみるか……」

 鍵を手にして立ち上がる。

 その時、ふいにドアがガタンと鳴った。

「未央か?」

 問い掛けながら、急いで玄関に向かい鍵を開ける。

「遅かったな、心配――」

 言い終わらないうちに勢い良くドアが開き、飛び込んで来たその姿に千聖は目を見張った。

「響……」

 ずぶ濡れで顔も服も泥にまみれ、口元には紫色のアザが出来ている。

「千聖っ、てめえっ!」

 途端、響は声を上げ千聖に掴みかかった。

 千聖は状況が飲み込めぬまま、響の顔を見つめていた。

 胸倉を鷲掴みにして、響がグイッと千聖を引き寄せる。

「あんたのせいだぞ!」

「えっ?」

「あんたのせいで未央が――!」

 その言葉で、千聖の顔色が変わった。

 今度は逆に千聖が響の肩を掴む。

「未央?未央がどうした !?」

「あんたが !!」

「響!未央がどうしたんだ !?」

「あんたのせいで連れて行かれたんだ!神部って男に!」

「神部――」

 千聖はクルリと背を向けると、リビングへ向かって歩き出した。