「未央!逃げろ!早く……早く行けぇええぇっ!」

「響!」

「早く!」

 神部がフッと笑みを漏らし、響の胸ぐらを掴む。

 直ぐに握り締めた右拳を、響の頬へと叩き付ける。

 そして飛び散った血飛沫にも少しも表情を変えず響を突き放すと、右脚で蹴り飛ばした。

「きゃぁああぁっ!響!」

 タップリと水を含んだ土の上に勢い良く倒れた響が、片手で口元を覆う。

 歩み寄った神部は響を引きずり起こすと、すぐにポケットからキラリと光る物を取り出して首筋に突き付けた。

「随分と元気な少年だな。でも私の邪魔をするなら、死んでもらうよ?」

「ああ!やれるもんならやってみろ!」

 売り言葉に買い言葉で叫んだ響に、神部は口角を上げた。

「そうか。それじゃあそうさせてもらおうか――」

 この男は普通じゃない。

 本気で響を殺す気だ!

 瞬時ににそう判断した未央は、叫び声を上げた。

「やめてぇえっ!」

 激しい雨音に混じって聞えた声に、神部は手を止めた。

「私行きます。あなたの言うようにします。だから、響には手を出さないで!」

「未央!なに言ってんだ!」

「ありがとう響。でももうこれ以上無茶しないで。ね、お願い」

 響に向かって未央が微笑む。

 だが、直ぐに唇が震えだし、大きな目には涙が溜まっていった。