「でもここは船の上ですよ。盗んだ後はどうやって逃げるんです?」

「それは企業秘密です」

「ハハハハ……本当に面白い。こんなに楽しい会話をしたのは久し振りだ。ワクワクするよ」

「おじさま?」

 心から楽しそうに笑った神部を、瞳が不思議そうに見た。

「瞳さん、素敵な恋人を見付けたね。お父さんにはもう会ってもらったの?」

「いいえ、父にはまだ」

「そう。でも、その方がいいかも知れないね。きっと腰を抜かすよ」

 神部は瞳に微笑んだあと、もう一度千聖を視界に捉えた。

「ぜひ今度一緒に食事をしましょう。君とはまた会ってみたい気分だ」

「それはどうも」

 千聖が答えると「じゃあ、瞳さんまたあとで」と軽く手を上げ背を向けた。

 少し行った所で立ち止まる。

 そしてまたこちらを向いた。

「そうだ、瞳さん」

「はい?」

「約束していた【幸せを呼ぶ石】。出航して一時間ほどしたら秘書にクロークから出させておくから、私の部屋へ見にいらっしゃい」

「嬉しい!おじさま覚えていてくださったのね」

 神部が瞳の言葉に微笑む。

「いや、今思い出したんだ。だからぜひ見にいらっしゃい。私の元から無くなる前に、彼と一緒に――」

 千聖はそう告げた神部の視線から、何故か目を逸らすことが出来なかった。