「では、私はあちらに戻る事にしますわ。お若い方々の邪魔をしてはいけませんものね」
「まあ、大小母様ったら」
途端に瞳は真っ赤になった。
急いで離れたが、やはり先程の行為を見られていたと思ったのだろう。
秋江はクルリと背を向けると、車椅子を器用に操って広間の方に戻って行った。
「やっぱり大小母様、元気を無くしていらっしゃるわ」
ホッと溜め息をついて、瞳が腰を下ろす。
「無理も無いですわね。博典様が御結婚なさったら、大小母様の大切にしていらした物は、いずれみんな愛人の娘の物になるんですものね」
確かにそうだろう。
あの女性はこの家に嫁いで以来、きっと一生懸命この家の財産や名誉を護ってきたに違いない。
なのにそうして護って来た全てを、いわばライバルである愛人の子に無条件で取られてしまうなんて。
それを決めたのが夫だなんて――
それでは「私が愛していたのはおまえでは無い。おまえは名前だけの妻だ」と言われているのと同じだ。
千聖は何か虚しい気分になって、瞳と同じように空を見上げた。
「きっと一番大切にしていらっしゃるあの【月の石】も――」
「【月の石】?」
「ええ、とても不思議な石よ。私、お願いして一度だけってお約束で見せていただいた事がありますの。大小母様はそれを事の他大切にしていらして。預かっている物だって仰っていましたわ」
【月の石】――
好奇心が頭を擡げる。
それに逆らう事が出来ず、千聖は静かに訊いた。
「どんな石なんです?」
「アメジストって御存知?」
「ええ、一応は。紫色の水晶でしたね?」
千聖が答えると、瞳は頷いた。
「【月の石】は、そのアメジストの中に白い月が浮かんでいる物ですの」
「月――」
