上体を千聖の方へ向けて月明かりに照らされた横顔をじっと見ていた瞳が、ふいに片手を千聖の膝へ落とす。
「ねぇ………」
少し甘えるような声を掛けてきた瞳を視界に捉え、千聖は軽く首を傾げる。
「何ですか?」
「何処か他へ行きません?」
「え?」
「もっと二人だけになれる所へ」
「そしてどうするんです?」
「もっと私のこと知っていただきたいの。色々と……」
千聖は瞳の考えている事が手に取るように分かり、肩を竦めた。
「出会ったばかりの男を誘惑するなんて、悪いお嬢さんだ」
「あなたは特別ですわ。だってクレオパトラが見付けてくれた方ですもの」
真剣な眼差しで呟き、瞳は今度は自分から顔を近付けて来た。
「千聖さん……」
まさに唇が触れようとしたその時、瞳が突然「ぁ……」と小さく声をあげて離れた。
瞳の視線の先に目をやると、車椅子の女性がゆっくりとこちらへ向かって来るのが見えた。
瞳が立ち上がってスカートを摘み、膝を曲げて御辞儀をする。
「秋江大小母様。御機嫌いかがですか?」
「あら、瞳さん。―― ええ、とても良くてよ。あなたもお元気そうね」
その上品な初老の女性は、傍に居た千聖にちらりと目を遣った。
「そちらの方は?」
「向坂千聖さんとおっしゃいますの。千聖さん、こちら永池秋江様」
立ち上がり、千聖が丁寧に頭を下げる。
「向坂千聖です。本日はおめでとうございます」
「ありがとう」
秋江は千聖の言葉に、ニッコリと微笑んだ。
そしてそのまま顔を見つめた。
「―― 何か?」
「あ……いいえ。ごめんなさい、不躾でしたわね。あんまり素敵な方だったので。それに―― ちょっと知っている方に似ていたものですから」
不思議そうな顔をした千聖に、秋江はもう一度微笑んだ。
