「私、婚約者の方が可哀想でなりませんの。だってそうでしょう?夫となる方には愛する女性が別に居て、自分とは親の命令で仕方なく結婚するのだなんて。そんなの私だったら絶対耐えられません。まして秋江大小母様のような立場だったら」
「それは?」
「博典様の御祖母様です。秋江大小母様も、やはり親の決めた婚約者だったこちらの大小父様と御結婚なさったんです。でも大小父様は、御結婚後もあちこちに女性をお作りになって。元々お身体の弱かった秋江大小母様は身体を壊され――」
瞳はホッと溜め息をついて、下を向いた。
「大小母様、癌でいらっしいますの。二年前に発見された時には、既に手の施しようも無く……。あとは御自分の好きなようにしたいと仰って、今は御自宅でお過ごしです」
チョロチョロと流れる水の音が響く。
千聖は瞳の言葉を一つも漏らさぬようにと、じっと聞き入っていた。
「あ、ごめんなさい。大小母様のお話ではありませんでしたね」
暫しの後、瞳は目元を拭いながら顔を上げた。
「聞くところによると、その愛人の中の一人が―― 親子ほども年齢の離れた方なのですが―― 別の方と結婚なさってお産みになったのが、博典様の婚約者だとか」
「つまり御主人の元愛人の子が、孫の嫁になる―― という訳ですか。しかもそれを決めたのは御主人だと」
「ええ――」
瞳は肯いて下を向いた。
「酷い話しだ」
「でしょう?ですから私は、自分の結婚する相手は自分で捜したいんです。ね、クレオパトラ」
同意の言葉を吐いた千聖に目をやり微笑む。
そしてまたその横に腰を下ろした。
「私、決めているんです。この子の気に入った方と結婚するって。そしてあなたはその候補――」
「僕が?―― それは光栄だ。君のおかげかな?」
千聖は、瞳の腕の中から自分の膝に移って来たクレオパトラの頭を撫でた。
