「そんな事は――。とても素敵だと思いますよ」
「良かった。分かっていただけて」
「分からない方もいらっしゃるんですか?」
「ええ、父も母も私をいまだに子ども扱いしますの。もうとっくに子どもではありませんのに」
瞳は千聖の膝の上のクレオパトラをゆっくりと撫でた。
「そうですか。それは可哀想だ。こんなに大人の女性の魅力に溢れているのに」
「本当にそう思われます?」
「思いますよ」
即答した千聖に微笑み、瞳がその豊かな胸を押し付けるように更に擦り寄る。
「なら、言葉では無く態度で示してくださいます?そうしたらさっきの事お話ししてもよろしくてよ」
「フッ―― 困った人だ」
軽く肩を竦め、漆黒の髪を掻き上げる。
それから右手で瞳の肩を抱き寄せてもう一方の手で顎を掴み、千聖は少し強引にくちづけた。
夜風がサワサワと頭上の木立を揺らす。
やがて唇を離すと、少し間を置いて千聖が口を開いた。
「これで―― 話していただけますか?」
「仕方ないわ。約束ですものね」
頷いて、瞳はクレオパトラを抱いて立ち上がった。
「瞳さんにも決まった方がいらっしゃるんでしょう?こちらの御子息のような方が」
千聖は頭の中を切り替えて話し始めた。
「私はそういうのは嫌いですの。家同士の都合で結婚相手を決められるのなんて、まっぴらですわ」
「では、この結婚は両家の都合だと?」
「余り大きな声では言えませんけど――」
瞳はチラリと辺りへ視線を投げた。
「じつは永池博典様には、他にお好きな方がいらしたんです。でも、亡くなられたお祖父様の遺言で……」
「なるほど」
千聖が肯く。
莫大な財産を持つ家では、昔からよくある事だろう。
