「ね、やってくれるよね?断ったりしないよね?私ね、正直言うとリトルを取り返したい理由ってお金の事だけじゃないの。淋しいのよ。リトルがいなくなって淋しいの。彼と別れたからっていうのもあると思うけど、夜になると思い出すの。リトルの仕草や、フカフカの毛のこと。可愛かったなぁ、抱き締めたいなぁって。だからお願い」

 頼子は両手を顔の前で合わせて、未央をじっと見つめた。

 その目には涙が光っていた。

(淋しい……そうよね。一人は淋しい。誰だって同じ)

 思い切って答える。

「この依頼、お引き受けします」

「わあ!良かった!ありがとう。ありがとう」

 思わず飛び上がった頼子を見て、未央はニッコリ微笑んだ。




…☆…



「ゴールデンレトリバーの体重は―― と……これにも載ってないわ」

 北野頼子の別れた恋人、土屋良二から愛犬のリトルを回収するために、未央は中央図書館で作戦を練っていた。

 日曜なのに早起きをしてここへやって来て、カウンターのようになっている窓際の席へ陣取り、犬に関する資料に片っ端から目を通す。

(もしも、言う事を聞いてくれなかったら無理やり抱いて来なくちゃいけないし、暴れそうなら眠らせることも考えなくちゃいけない。でも三十キロ以上はありそうよね。フゥ……困ったなぁ。どうやって回収しよう)

 未央は溜め息をついて窓の外に目をやった。

 今日は天気も良く、すぐ横の公園はジョギングをする人や親子連れで賑わっている。

 みんなとても楽しそうだ。

 犬を連れた人も大勢いる。

(あれはハスキー犬、あっちのリボンをしているのはプードル。マルチーズに、ポメラニアン。柴犬もいる。フリスビーをやっているのはボーダーコリーかな?それからあれはゴールデンレトリバー……)

 さながら犬の品評会のように、あちこち歩き回っている。

 飼い主御自慢の犬ばかりだ。

(レトリバー。やっぱり大きい……)

「あっ!そうだ」