「お……驚かすなよ」

「まったく……」

 まるで名探偵が謎を解き明かす時のように胸の前で腕を組み、久乃がゆっくりと階段を下りて来る。

「ここを何処だと思ってるの?神聖なる学校よ」

「神聖……なる?」

 口元を引き攣らせて響が呟いた。

 二人の間を通り抜けながら、久乃が言葉を続ける。

「そういう事は二人っっっ……きりの時にやって欲しいもんだわ」

「久乃、誤解よ。響とは何でもない――」

 固まってしまった響の代わりに、未央が慌てて否定した。

 しかし、久乃の耳にはただの言い訳にしか聞こえなかったようで。

「何が誤解ですって?『一人でいるのが淋しいんなら、毎日おまえの家に行ってやるぅ!』なんて言ってくれる人と、何でもないはず無いじゃない」

 そして廊下へ降り立ち振り向くと、久乃はポンと手を叩いた。

「あぁ!もしかして二人はすでに半同棲状態とか――」

「久乃!」

「この野郎、黙って聞いてりゃ勝手な想像しやがって!」

 やっと呪縛から解き放たれた響が、真っ赤になって立ち上がる。

「きゃぁああ!ゴメン!旦那様お許しを!」

 弾かれたように階下へ向かって階段を駆け下りる久乃を追って、響も駆け出した。

「待てよ!久乃!てめぇ――」

「やめ――!響!」

 バタバタと足音が遠離る。

 やがて静かになると、少しして響が戻って来た。

「畜生!久乃の奴、早速教室で言いふらしてやんの!―― ったく!」

 文句を言いながら、今度は少し間を開けて未央の横に座る。

 フゥッと溜め息をついて、しばらく黙ってから響は口を開いた。

「そろそろ教室戻らなきゃな」

「うん……」

「じゃ、負ぶされよ」

「うん、ありがとう」

 未央は肯いて手摺りに掴まり、立ち上がった。