あたしは玄関のドアを開けた。

「すみません。
 あいさつに行こうと
 思ってたんですけど、
 ちょっとたてこんでて。
 …あれ……どちら様?」

目の前にいるのは
アパートの大家さんではなかった。

うろ覚えだけど、
大家さんはおばちゃんだったし。
こんなに若い男の子じゃなかったはず。

「あ、こんにちは。
 隣の205号室の者なんですけど…
 俺の部屋の鍵…知らないかな?
 部屋の中とかになかった?」

「こんにちは。
 鍵…みてないですね。
 なくされたんですか?」

「あ〜…そっか〜。
 うん、そうなんだよね〜。
 まあ仕方ないね。」

仕方ないって自分の部屋の鍵だろっ。

「入れないじゃないですか!
 スペアは?」

「うーん。
 前もなくしちゃったんだよね。
 今、探してんのがそのスペア。」

「…それはお気の毒で」

「あ。そうだっ!
 君さ、大家さんに
 頼んできてくれない?
 俺、あの人すごい苦手なんだよ。
 同情するなら力貸してよ。
 ねっ?おねがいっ」

「え、なんであたしがっ」

いやいやいや。
意味わかんないし。
あたし関係ないのに。

何か見覚えあると思ったんだ。
この人、みればみるほど、
昔飼ってた犬に似てる。

おねがいする瞳が

うるうるして、

愛くるしい〜……。

タロウ〜。゜

だめだっ。

心が揺れるっ。

「〜…。わかった。
 言ってきましょう。」