式典は予行練習通りに進み、各クラスの代表男女1名ずつが壇上に上がり、校長先生から卒業証書を受け取る。


厳かに時間が流れていく中、私は胸元の赤い造花を見下ろした。


今日卒業したら、私はもうこの学校の生徒じゃなくなる。


私と芦屋先生は、先生と生徒じゃなくなるんだ。


もう一度芦屋先生に視線を戻すと、隣に座る生物の小宮先生に話しかけられたのか、2人で少し身をかがめて何かを話していた。


フッと笑う顔が見える。


周りに悟られないように抑えて笑う顔が、私の胸を痛いくらいにドキドキさせた。






式典も終盤にさしかかり、卒業生全員で校歌を歌う。


小さな声で口ずさみながら、高校生活の思い出をたどる。


私が高校に入学した時、3年後の今の自分を誰が想像出来ただろう?


クラスの中で目立つわけでもなく地味なわけでもなく、平々凡々の私。


弓道部に入って部活に打ち込んで、勉強も頑張って……。


そんな生活を3年間送ると思っていたのに。


高校2年の夏にすべてが変わった。


芦屋先生に出会ったあの時から。


私に声をかけてくれたあの時から、私の高校生活は平々凡々なんかじゃなくて、誰よりも輝き出したんだ。