「嘘じゃなくて本当の話。芦屋先生からちゃんと聞いたの」


澪は私から目をそらすことなく、今度は力強く言った。


「弓道の試合、見に来てくれたでしょ?あの時……透が芦屋先生のこと責めたの。別れたいって言っておきながら誘えば試合も見に来るし、中途半端なことして萩が可哀相だって」


次から次へと今まで知らなかった事実を話していく澪の顔を、私はひたすらボーッとする頭で眺めていた。


私の知らないところで、歯車が動いているみたいだった。


「萩のことが好きだって、だから最後の試合だけは見ておきたいって言ってたんだよ?そして、何事もなくちゃんと卒業してもらうことが何よりの望みだからって……」


澪の言葉が遠いところで聞こえるようで、不思議な感覚に陥りそうになる。


そうか。
頭の片隅で思い出した記憶があった。


あの大会があった日、試合が終わったあとに澪が私に何かを言いかけていた。


徳山先生が制止していたけれど、彼女が言いたかったのはこのことだったのだ。


あの時、変に思っていた澪と徳山先生のやり取りは、この話が原因だったということ。


「だから、萩。頑張れないなんて言わないで。今までの頑張り、ちゃんと芦屋先生に伝わってると思うから」


ちゃんと伝わっている。


澪の必死な声が、言葉が、心に響いてきて、何かがこみ上げてきた。