「私さ、あの試合の日、徳山先生が芦屋先生に試合に来てほしいって誘ったって聞いた時、正直来ないだろうなって思ってたんだ」


暗闇の中で若菜の静かな声だけが響いていて、私はウン、と相槌を打った。


私だって来ると思わなかった。


でも、そのあとも芦屋先生の授業では目を合わせてくれることも無かったし、廊下ですれ違っても挨拶さえしなかった。


いまだに来てくれたことが信じられない気持ちになる。


「でも、来てくれたよね。萩のためだけに」


そう言われて、私はよく見えない若菜の顔をじっと見つめた。


その視線に気づくことはもちろんなく、若菜は話を続けた。


「それって凄いことだと思わない?1人の生徒のために、普通来るかな?」


若菜は知らない。
私と芦屋先生が付き合っていたことを。


でも、ほんの少し気づいているのかもしれない。


そう感じさせるような口調だったからだ。


「変に期待を持たせるつもりじゃないけどさ、芦屋先生も萩のこと好きなのかなって……単純に思った瞬間だったから」


「そんなわけないよ……」


私は寝返りをうって、小さな声で否定した。


「それなら告白した時に応えてくれるはずだもん」