徳山先生がここにしよう、と入ったお店はちょっと大人っぽいイタリアンのお店で、普段ファーストフード店やファミレスしか行かない私には新鮮だった。


メニューを見るとランチセットが1,800円もして、さすが大人だなと感心する。


「もちろん、今日はごちそうするから遠慮なく食べて」


徳山先生が当たり前のように言ってくるから私は「大丈夫です」と返したけれど、先生は首を振るばかりだった。


「学校の教師は辞めたけど、今はちゃんと塾の講師という仕事にもついてるから。そこは気にしないで」


「は、はい……」


なんだかすみません、と心の中で思っているうちに徳山先生があっという間にウェイトレスを呼び止めてランチを3人分注文してしまった。


ほんのりレモンの香りがするお水を飲みながら、窓際の二階席から景色を眺める。


外には日曜日の混雑が広がっていた。
私たちがいる静かなお店とは正反対のように。


「芦屋先生と別れたんだって?」


という徳山先生の言葉で、一瞬にして現実に引き戻される。


私が視線を窓の外から徳山先生と澪に移すと、2人は私をじっと見ていた。


「あ……はい」


しずしずとうなずく私に、徳山先生は意外そうにいつもより目を細めた。


「さすがにちょっと驚いたよ。君たちは……なんていうか、長続きしそうな気がしていたから」


長続きしそう、というのが私たちのどこを言っているのか分からなくて、首をかしげてしまった。