「お疲れ様」
芦屋先生はそう言っていつものように微笑んでいた。
あれ?怒ってないのかな、と不思議に思う。
ゆっくり車が動き出す。
流れる景色を眺めていたら、芦屋先生が私に話しかけてきた。
「今日はずいぶん、ご機嫌斜めだね」
「そ、そんなこと……ないです」
即座に否定したかったのに、力強く否定することが出来ない。
「今日は驚いたよ。高校生のバレンタインってこんなに盛り上がるものなの?」
のんきな先生の物言いを聞いていたら、私の心の奥からまたイライラが引き出されてきてしまった。
「先生は今日、どれくらい女の子にチョコもらったんですか?」
ものすごくトゲのある言い方で聞いたのに、先生はまったく気にすることなくいたって普通だった。
「数えてないけど、そんなにもらってないよ」
「嘘つき」
私のイライラは早くもピークに達していた。
「嘘つき。たくさんもらってたの知ってるんだから。徳山先生は全部断ってたんだよ?どうして先生は断ってくれないの?」
先生は数時間前に見た時と同じ、驚いた顔をしていた。