菊ちゃんは鼻歌を歌いながらガトーショコラのキットの箱を開けて、材料を取り出している。
私も生チョコの方のキットを手順通りに作ることにした。
普段、料理はあまりしないので2人とも手際が悪い。
洗い物だけがどんどんシンクに溜まっていった。
作りながら、芦屋先生が作ってくれたご飯や、この間の澪の手料理を思い出す。
少しくらいは家事も勉強しないと、このまま実家暮らししていたらあっという間にグータラ娘になってしまう。
芦屋先生は一人暮らしも長いのだし、家事全般なんか楽にこなしているようだった。
そこまで考えて、違う、と手を止める。
そういえば芦屋先生には2年前まで彼女がいて、おそらく私の想像では長いこと同棲をしていたのだ。
その彼女に比べたら、きっと私は何も出来ないお子様にしか見えていないはずだ。
「はぁ……」
心の中でついたつもりのため息が、現実にため息をついてしまった。
「ため息つくと幸せ逃げちゃうらしいよ」
隣でガトーショコラを作っていた菊ちゃんがニヤッと笑っていた。
オーブンを使う菊ちゃんと違って、私はチョコを湯煎して生クリームと混ぜて型に入れて冷やすだけ。
工程も少なく短時間で出来るはずの生チョコなのに、気づいたらかなりの時間がかかっていた。