私の体に回された真司の手は、とても温かかった。


相反するように私の手はとても冷たい。


ほとんど手つかずのスケッチブックのページがバラバラと風に煽られてめくれていくのが見えた。


「倉本くんが手伝ってあげればいいんじゃない?」


と言った、あの時の芦屋先生。


メガネをかけていたからこそ余計に見えない先生の気持ち。


今まで私の存在はとても困らせていたのかな。


そうだとしたら申し訳なかった。


きつく抱きしめてくる真司に、少し冷静になった私は謝った。


「ごめんね、真司。ありがとう。私は大丈夫」


徐々に抱きしめる力が弱くなっていって、体が離れる。


「なにが大丈夫なんだよ」


真司は眉を寄せて少し強い口調で続ける。


「大丈夫じゃないだろ」


「バカだよね、私」


自分でもとっくに分かっていた。


「でもまだ芦屋先生のこと、嫌いになれそうにないや」


涙は止まった。


「少し考えてみる」


私はスケッチブックと鉛筆を拾うと、心配そうな真司に笑いかけた。