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カラオケから開放されたのは夜の7時を回った時だった。
「今日は楽しかったですね…また行きましょうね?」
「た、たまになら良いよ?」
ストレスを発散するどころか逆に溜め込んでしまったような気がしてならない…エンドレスに歌わされたから喉は痛いし、大音量で歌っていたから耳なんてキンキンしているし?学校までに治るかなぁこれ…
(今度誘われた時は父さんも連れていこう。)
父さんならカラオケに行く途中で、上手いこと彼を止めてくれるかもしれない。何と言ったって教師だし?丸く言い収めることなんてお茶の子さいさいだろうし?
そう言えば今日…そんな父さんはこれから飲み会に行くとかで、実は今家にはいないんだった。さっきメールで初めて聞かされた。
臼田くんにバレてしまうと多分またカラオケに行きたがるから黙っていようと心に誓った。もう体力の限界だから近所のファミレスにでも行こう。
「しかし電車で帰るのってめんどくさいですよね。」
駅の改札口に入って並んでいる最中に、楽しそうに鼻歌を歌っていた臼田くんが口を開く。
「自転車で行ける距離だったらな…きっと今気持ちが良かったことでしょうね。」
臼田くんは空を見ながら、口元を緩めて。マイクを持っていた時から見ると想像が全くつかないような、優しい言葉を口にした。
「夜風が気持ち良いので。」
「………」
久しぶりに『臼田くん』を見たような気がした。
いろんなことが起こって少し自暴自棄になっていた臼田くんだったけれど、カラオケに行っただけでここまで元に戻ってくれるだなんて…いや。『臼田くん』ではなくてこれは…
「 」
呟いた言葉は、駅にやって来た電車のブレーキ音によってかき消された。
…もし臼田くんに聞かれていたら、ちょっとどころかかなり恥ずかしいかもしれない…その内容に触れることがなかったから、多分聞こえてはいないと思われるけれど。

