ワンダー、フルカラー

「それでは根津さん、また後で。」

臼田くんの家は隣にある。しかし先に家に到着するのはたった少しの距離だけれど私の方だ。

「うん、待ってる。」

だから彼はいつも私が家に入るまで見届けて、扉を閉めてから自分の家へと帰っていく。
蝶を目で追い掛けるような良く分からない不思議くんでも、実はもの凄く紳士的な人なのだ。と、この時ばかりは思ってしまう。機械的人間にも見えない。
臼田くんの謎は年を重ねるごとに深まってゆくばかりだ。

「おーマヨ、ちょうどいいところに!」
「あ?」

家の廊下を歩いていると、何故か仕事に行っているはずの人間がリビングからひょっこりと顔を出してきて、私のニックネームの方で慣れなれしく呼んでは手招きをしてくる。しかし何故か自ら私の近くへとやって来ては慌てた様子でこっちを見ていた。
その正体というのは、

「父さん…」

私の父親であり、近所の高校の教師をしている人間である。

「いやぁ本当助かったわ。お前がいてくれて。」

目の前にやって来た父さんは私に『お帰り』も言わずに、マシンガンのように休むことなく一方的に喋り始めた。
まだ話を聞く気分じゃないし、そんな構えをしていないというのに何この人。何様ですか。

「実は今日定時制学級の方の授業の手伝いでな、帰りが夜中っつーか深夜になりそうでよ。いわゆるお楽しみ会もしてこようかと思っていてなぁ…」
「また飲み会?」
「違うお楽しみ会。」

父さんは私が小さい頃からお酒を呑みに行く際は『お楽しみ会』だのと言ってくる。高校生になって空気を読めるようになってきてもそれは変わらず続いている。

「で、だ。今日はお前は爽助くんと一緒に夕飯は食べなさい。話は爽助くんに付けてあるから。」
「はぁ?」

そんな一方的な話を聞いていれば、何やらとんでもないことを言い出す目の前にいる呑んだくれ男。
ていうかそんな話は今日は一切全く聞いていないのですが!!

「ちょ、飲み会行きたさに他人に娘を押し付けんなし。臼田くんここにこれから来るんだけどもしかしてそれ関係してるの?」
「爽助くんのおじいさんとおばあさんは急遽何とかツアーに参加することになったらしく帰りが遅くなるらしいぞ。今日の朝爽助くんのことを頼まれたが父さんには日直とお楽しみ会がだな!お楽しみ会がっ!」
「………」

ああ呆れた…この人仕事よりも『お楽しみ会』を強調しやがった。

「分かった分かった。とっとと出てけ酔っ払い。」
聞き分けの良い娘を持てて父さん幸せー!じゃあ行ってくるぞ我が愛しの娘よ!!」

娘がツッコんでも無視をしてくるだなんて最低な父親だ。これってまるで育児放棄じゃないか?いや、育児されるほどの歳ではないから違うか。
『愛しの娘』とか言ってくる割には放置だもんなぁ…あの父親本当酷すぎる。どれだけ自由に暮らしているの、父さん。