家に帰ると、部屋の隅に積まれた雑誌の中から、一冊を引っ張り出して広げた。
それは、高校を辞めた日、ミズホの友達が携帯と一緒にベンチに置いていたものと同じものだ。

あの日、ミズホのメールを見たとき、携帯が置かれていた雑誌のページは開かれていた。
事務所をやめたというメールの下に見えたのは、どんな巡り会わせか芸能事務所の募集を呼びかけるページだった。

ミズホのメールに、運命が動いている感覚を受けた僕は、そのページの事務所に履歴書を送ったのだ。

それが、鈴下社長の事務所star chartだった。

もう一度、しっかりとそのページを見つめてみた。

「社長の名前、載ってるし・・・。」

ページの隅に、鈴下博と書いてあった。
見つけたのと同時に、さっきの話が本当なんだと改めて感じた。

「俺が、芸能界・・・。」

確かに、僕の人生が180度変わろうとしている。
でも、やっぱり怖かった。
どうしてこうも駄目なんだろう。

でも、人間っていう生き物はそうなのかもしれない。
変わりたいと願っても、実際に自分の周りの環境が大きく変わろうとすると、急に怖くなるのだ。

「・・・携帯、鳴んないよな。」

静かに雑誌の横に投げ出された携帯は、残念ながらなることはなかった。