「これが、うちを受けた君の素直な理由って訳だ。」

社長が示している志望理由の欄には、一言だけ僕の字で埋められている。



 志望理由
  変わりたいから。


たった一言、でも、僕の最大の理由だ。

「君は、そんなに変わりたいのか?」
「・・・僕、今までの生き方で良かったと思ったことないんで。」

無愛想に答える僕に、社長は急に真剣な顔をして話し出した。

「僕が君に変わるチャンスを与えると言ったら、君はどうする?」
「・・・え?」

話が飲み込めない僕に、社長が話し出した。

「その様子じゃ、芸能界に入る気があった訳じゃないんだろう?だが、芸能界に入れば、君は確実に今の生き方から抜け出せる。ただし、いい方に転ぶか、悪いほうに転ぶかは、君しだいだ。」
「僕しだい・・・」
「あぁ、才能があれば生き残れる、人と同じじゃ生き残れない厳しい世界だ。だけど、僕は君に興味がある。君が覚悟があるのなら、僕のところで働けばいい。」

思いがけない話に、僕は返事が出来ずにいた。
もともと芸能界を目指している人間なら、二つ返事で頷くところだろう。
でも、臆病な僕にはそれが出来なかった。
変わるチャンスを、予想外なところで目の前に転がされると、少し前の自分に戻ってしまう。

沈黙が続く中、先に声を出したのは社長だった。

「悩むだろう。人生がかかっているからな。一週間時間をあげるから、考えてみてくれ。」

そういうと、伝表を手にとって店を出て行ってしまった。
僕は、そこから動くことも出来ずに、その姿を見送った。

一週間、人生の決断を下すには、与えられた時間はあまりにも短かった。