昨日の夜、ミズホに送ったメールは結局返ってこなかった。
あんなに悩んで送っただけに、何だか拍子抜けしてしまった。


でも、感謝してる。
あのメールがあったから、きっと今朝、母さんに笑顔を向けていってくると告げることができたのだから。


何とかたどり着いた校門の前で、僕は立ち止まった。
集合時間の5分前。
いよいよ僕の、高校生活が幕を開けるのだ。

「・・・っし。」

小さく気合を入れて、一歩踏み出した。
そのときだった。


――ピリリリリ~♪


小さな電子音が僕の耳に飛び込んできた。
電源を切り忘れたことに気が付いて、慌てて制服のポケットから携帯を取り出す。
そして、映し出されたメールの受信場面に僕は固まった。



 from:ミズホ

 あなたは
 誰ですか?



少しの期待を胸に、昨日登録しておいたミズホの文字を、信じられない気持ちで何度も確認した。
どうやら、神様は、本気で僕に変わるチャンスをくれるらしい。


人は、自分が運命だと思い込んだものに背中を押されると、とんでもない決断もいとも容易く下すことが出来るらしい。


校舎に向かって踏み出した進路を180度変えた。
僕の背中を押してくれた運命のメールに返信する前に、携帯のリダイヤルから、一件の番号を呼び出し、発信ボタンを押した。
3回ほどコールすると、聞きなれた声がする。


僕は走り出していた。
背中を押され、走り込もうとしている未来は、さっきまで見ていた未来の何倍も明るかった。


「あ、母さん?俺だけどさ、」


見上げた空の青さに、目を細める。


「俺、高校辞めるから。」


走る僕の背中から、学校のチャイムが聞こえてきた。