「俺さ、今日……親父の夢見たんだ」
その彼の言葉に思わずポカンと口を開くと、彼は面白そうにクスリと笑う。
「何かごちゃごちゃどうでもいい事喋ってたけどさ……」
そこまで言って彼は私の隣にそっと腰を下ろすと、それからそっと私を見つめた。
「親父……笑ってた」
彼はそう言ってニッコリと優しい笑みを浮かべる。
「綺麗事でも、偽善とかでも……何でもいい。きっとそれが……答えの様な気がするんだ」
彼はそう小さく呟くと、そっと赤ん坊へと指を伸ばす。
彼の指が小さな手に触れると、その手はギュッと彼の指を掴んだ。
「お前にも、この子にも、もちろん俺にだって……この先の《未来》がある。《幸せになりたい》と思う事は決して《罪》なんかじゃない」
彼はそう言って真っ直ぐに私を見つめる。
まるで全てを見透かされてしまいそうな不思議な黒い瞳を見つめたまま、ボロボロと涙を流し続ける。
「それでもお前が自分を赦せないと言うのなら、俺がお前を……お前達を赦そう。世界中の誰もがお前達を赦さなくても、この俺だけは……この俺だけがお前達を赦し続ける」
そう言って彼は優しく笑う。
その笑みは遠い記憶の中に揺らめく《彼》の笑みと全く同じで、息が出来ない程に私の胸を締め付けた。
「……似てるね。誠君は……お父さんによく似てる」
そう言って涙を流したまま笑って見せると、彼は《そうかぁ?》と首を傾げて……それから嬉しそうに笑った。



