「健一……それは内緒にしてくれって古川さん言ってたじゃない」
綾子はそう言って咎める様な視線を近藤さんに送ると、呆れた様に小さくため息を吐いた。
その彼女の左手にも……近藤さんと同じ銀色の指輪が光っている。
それを見つめたままクスリと笑みを浮かべると、それから静かに……愛しい我が子へと視線を落とした。
胸に抱いたままの赤ん坊は、小さな手をキュッと握ったまま静かに寝息を立てている。
こんな騒がしい中で眠れるなんて、大物かもしれない……とか思ってしまう私は、すでに親バカなのだろうか。
小さな命の温もりを感じながら……不意にあの不思議な《夢》を思い出す。
あれは弱い私の心が見せた幻なのかもしれない。
ただ赦されない罪の意識に苛まれ、それから逃げ出したいと思ってしまった私の……都合のいい幻想なのかもしれない。
そんな事を考えながら……目の前の《彼》を見つめた。
お腹を抱えてケラケラと笑う彼を見つめながら、ツキンと胸が痛むのを感じる。



