『泣かないで。泣かないで瑞穂』

……何処からか声が聞こえる。

その声はまるで私の全てを包みこんでしまう様に……優しく響いた。

『君を悲しませる全てのモノを僕が消してあげるから』

その声が聞こえた次の瞬間、激しい打音と共にお父さんの姿が消えた。

『……僕が守って見せる。世界中の全てから……必ず君を守って見せる』

……目の前には赤い海が見える。

その赤い海の中央で溺れる様に、お父さんがピクピクと体を震わせていた。

『そう……もっと早くにこうすればよかったんだ』

また小さく声が聞こえ、どこからかクスクスと笑い声が聞こえる。

……どこから?

そんな事を考え、そっと自分の唇に触れた。

……その笑い声は《自分》の口から聞こえていた。

私の唇が歪に吊り上がり、妖しい笑みを浮かべている。