「よ。」

「ミツくんだ!
ハナに会いに来たんでしょ?
どうぞ、入って!
あ、レンくんも!」

「ありがとう。
じゃ、遠慮なく。
ハナ。元気か?」

「ありがとう。
あ、あと2人居るよ。
オレの後ろに。」

「こんにちは。
俺は黒沢一成《くろさわ かずなり》。
優と蓮太郎と、オレの後ろにいるコイツと同じ班だよ。」

「あっ、いたいた!
華恵ちゃんは初めましてだよね?
班決めの日、風邪で休んでたもんね。

ボク、相原真《あいはら まこと》です。
よろしくね。」

あれ、この2人、もしかして。
宿泊オリエンテーションの時に聞いた、友佳と麻紀の想い人?

「よろしくね!
一成くん、真くん!」

友佳は、一成くんのことをチラチラ見て、顔を耳まで赤くしている。
好きなの、バレバレだよ?

「ボク、ウノ持ってきたんだけど、やる?」

「やる!」

真くんの誘いに、友佳と麻紀が同時に言う。


「遊ぶ心意気は元気で良いですが……研修室に荷物を置いてからにしましょうね?」

先生に注意された。

皆で研修室に移動した。

研修室に荷物を置いてから、ウノをやろうとしたところで研修の時間になった。

1泊2日の午前の活動は無事終了した。
ひたすらクイズ大会。

あまり楽しくなかったな。

お昼ご飯は予想通り、海鮮丼。

午後の活動であるスピーチ原稿の添削も無事に終えて、部屋に荷物を持って移動した。

やるのは外でのレクリエーション。

なぜかウチのクラスは、ビーチボール借りたのに、ビーチバレーじゃなくてドッジボールをやった。
なんで、三浦まで来てドッジボール?

ALTの人、楽しんでいたから良しとしよう。

レクリエーションが終わった後は、研修室組と海岸組に別れてそれぞれ、明日のスピーチのための練習をする。

歩きながらスピーチの練習してたらかなり遠くまで歩いて来てしまっていた。

そして、迷ってホテルまで帰れなくなってしまった。

ホテルまで歩くの……大変だ。
大変の前に、道が分からない。

そして、思いきり転んでしまった。
転んだ先には……小さなカニ。

カニのハサミにつまずいて転ぶ高校生は、世界中のどこを探しても私くらいだろう。

近くの木の幹の欠片が、少し足に刺さってしまったらしい。

はあ……ついてないなぁ。

こんなんじゃ……帰れないよ……。

「ハナ!」

泣きそうになっていたところに、大好きな人が来てくれた。
ミツだ。

息が切れている。
私を捜し回ってくれたようだ。

「勝手にほっつき歩くなって……
オレがどんだけ心配したと思ってんだよ。」

額を軽くデコピンされた。

「………。
ごめん。」

「あ……あのさ。

ハナ……朝、兄さんの車の中で寝てたとき、寝言を言ってたよな?」

「言ってたの?」

全然記憶にない。

「言ってたよ。
『ミツ…好き…』って。」

まだ小さい私とミツが公園で遊んでる夢を見ていた事は覚えてる。

でも……好きっていうのは、私の本心。

「ハナ。
オレは……ハナが好きだ。
小さい頃から一緒の"幼なじみ"としてじゃなくて、"一人の女"として。」

これ……告白……だよね?

「先に言わないで!
私も、ミツのこと、好きだから!

好きよ、大好き。」

耳まで真っ赤になっているのが、自分でもわかる。

「ミ……ミツ……?
キス……してほしいの……」

思えば、ミツとキスしたことは……
中学生の頃、私が嫌な目に遭った傷を癒やしてくれた日以来、なかったから。

ミツは優しく微笑んで、わざと小さく音をたてるようにして唇を重ねてくれた。
お互いにそんな軽いキスじゃ物足りなくて、何度も唇を重ね合わせた。

「んっ……」

キスが深くなると、声が漏れる。
いつしかきつく抱き合って、お互いのキスに溺れていた。

そんなことをしているうちに、ミツが私の足に刺さった木の幹の欠片に気付いてくれた。

そして、微かに遠くに聞こえていたヘリの音が近くなってきて、私たちの近くに着陸した。