〈レンside〉
……ミツの様子が明らかにおかしい。
ハナが目を合わせてもフルシカトだし。

そして何より、一緒に行動しないって、どうかしている。

合唱部発表には1日目だけ来たらしい。

……ミツのことだから、2日連続来るだろうと思っていた。

しかも、文化祭後のHRが終わってすぐオレらに何も言わないで帰ったようだった。

放送部のミーティングが終わった後、ミツの下駄箱覗いたら、靴がなかった。

アイツ……どうしちゃったんだよ。

オレも、一人で帰ってから妙に落ち着かない。
行こうか行くまいか悩んだ末に……来てしまった。
ハナの家。

20時ごろ。

……この時間なら、とっくに夕食を食べ終わっているはずだ。

インターホンを鳴らしてみる。

すると、無機質な機械音の後に、ハナの母親が出てきた。

「おばさん!ハナは!?」

「あら!
レンくん……久しぶりね。
あらまぁ、ずいぶん大人っぽくなっちゃって。」

視力がいいオレは、ハッキリと見えた。
リビングにラップをかけて置いてある……1人分の夕食。

「おばさん……あの夕食、まさか……!」

「そうなのよ。
ハナ、『食べたくない』って言って下りて来なくて。」

「おばさん!
俺がハナとちゃんと話してリビングに連れてくるからね?」

「助かるわ。」

……オレは1歩1歩……階段を踏みしめるようにして上がっていった。

そして……ハナの部屋のドアをノックする。

コンコン。

「オレ。レンだよ。
……開けて?」

「………帰って!!」

「無理。
ハナと話が出来るまでオレずっと……ここで待ってるから。」

ドアを開けたハナは、ブレザーとスカートのまま。
シワになるから着替えろというと、再び部屋の外に出された。

何だよ。
お前の裸も、下着姿も、1回見てるじゃん。

丈の短いニットワンピースに着替えたハナから話を聞いた。

魔導学校の頃の顔馴染みの男から告白された。その返しが、好きな人がいるだけでは、ミツも勘違いするだろう。

絶対ミツは、ハナの好きな人がオレだと勘違いしているんだ。
それしか、オレを避ける理由はないからな。

カン違いしているんだよ。
ハナの好きな人を。

確かめるには、少しだけ心苦しいけれど、この方法を使うしかない。

準備はバッチリだ。

「ハナ。
オレじゃ……ダメ?

オレじゃ、ミツの代わりになれないかな?
好きなんだよ。……ハナのこと。」

これホントは……EnglishCampのときに言うつもりだったんだけどな。

今サラリと言えた自分に、我ながら驚きだよ。


「返事は?」


「………。」


「ハーナ」

黙りこくってしまった彼女に、目線を合わせて返事を催促する。

「……ごめんね。
レンの気持ちはすごく嬉しいの。
だけど私は、ミツが好きなの!」

「……そっか。
やっとハナから直接、本当の気持ち聞けたよ。」

そう言ってオレはハナの頭に手をポンって置いて顔を覗き込んだ。

ハナ……泣いてる?

「いいよ。ハナ。
泣きたいなら泣いていいよ?

オレにこんな甘えることも、ほとんどなくなるだろうからな。

オレからの最後のサービス。」

ハナは、オレの胸に顔を埋めて泣いた。
オレの腹の辺りに柔らかい膨らみが当たるが、この際どうでもいい。

「レン。
ずっと気になってたんだ。
レン……変わったね。

雰囲気だけじゃない。

帰国してすぐ、私と寝た、あの日から。
レン、私以外に好きな人いるんじゃないのかなって思ってた。
だって、なんか違ったもの。

私を抱き締めるときの手の位置が、昔と逆になってるの。
レン、自分で気がついてた?
今もそうよ。」

そこで気付くとは、さすがは幼なじみだ。

「そこかよ。
さすがは、オレの幼なじみ。
よく覚えてるのな?

そう。
オレは、アメリカに好きな子いるよ。

アメリカだと、デーティング期間って言って、
色んな女の子と会ってデートして、一緒に寝るのもあり。
身体の相性も大事だからね。

その期間、終えるためには、俺からガールフレンドだよって言うとか、親に紹介するとか、いろいろあるんだけど。
これで、ちゃんとその子にガールフレンドだ、って言えるよ。

ありがとうな、ハナ。
踏ん切りつけさせてくれて。

あとは、オレはハナ、お前とミツを応援するだけだ。
……協力くらいはさせろよ。」

ハナは落ち着いたようだ。

「泣いたらお腹空いてきちゃった。
私はご飯食べにリビング降りる。
レンはどうする?
泊まってく?」

無邪気に泊まってく?なんて言うな。
そんな丈の短いワンピースで。
オレだからいいけど、普通の男ならベッドに押し倒されてるぞ?

「はぁ?
本命の子がいる男を泊めるメリット、ハナにないだろ?
オレがこの状況で泊まったら、ミツのやつ、今度こそ誤解するだろうからな。
オレは帰るよ。

おやすみ。」

それに、俺は、誤解している男に伝えたいこともあるからな。

ハナのおばさんに帰るというと、おばさんは泊まっていけばいいのに、と言ったが、丁重に断った。