オレとハナが、クルーズ船での結婚式を挙げてから、12年が経っていた。
この年の夏は、猛暑となっている。
「休みは労働者としての基本だ、休め、って言われてもねぇ。
依頼断ることになっちゃうし、それも困るんだよねぇ。」
弁護士になりたての頃のハナは、オレたちの母校の教授が所長をしている法律事務所で、あわあわしながら仕事を進めていた。
しかし、今ではもう、独立して立派な弁護士になっている。
自宅を改装して、自宅の隣に建てた離れが、弁護士事務所だ。
ハナは早めに事務所を閉めて、結婚式の2年後に生まれた長女、優美《ゆうみ》がそろそろ小学校から帰る頃なので、夕飯の支度をしている。
野菜を刻む音を心地よく聞いていると、ベビーベッドから泣き声がした。
「ごめん、ミツ!
ちょっと包丁お願い!
優華、寝てたのに起きちゃったみたい!」
優華《ゆうか》というのはオレとハナの2人目の子供の名前だ。
3年前に誕生したばかりだ。
オレも検察官の仕事をしており、激務だ。
今日は珍しく休日をもぎ取れた。
なかなか夜の時間が取れなかったせいで、1人目と2人目の年齢差がこんなにも離れてしまった。
「ただいま。」
「おお、優美。
おかえり。」
「あれ?
お父さんが台所にいるの、珍しいね?
お母さんは優華見てる感じ?」
ランドセルをソファーに放って、洗面所で手を洗うと、優美はオレの隣に立つ。
「もう!
お湯!
吹きこぼれてるじゃん!
ちゃんと見てってば!
もういいよ、お父さん!
私が野菜切る!」
そう言って、優美は包丁をオレの手から奪って手際よく野菜を切り始めた。
「あら、優美。
おかえり。
どうだった?学校は。」
「別に普通だよ。
授業は予習してあったから知ってることばっかりでつまんなかったし。
明後日には終業式なの、気が楽よ。
っていうか、お母さんは寝てなよ!
優華の世話で手いっぱいでろくに寝れてないんでしょ?」
「優美だけに夕飯の支度任せちゃうのはねぇ。
ちょっと申し訳ないわ。」
「依頼人抱えてる敏腕弁護士でしょ?
お母さんが風邪引いたらどうするの?
いいから寝てて!
お父さん!
ボーッとお母さんを見つめてないで、パスタ茹でてよ!」
時に辛辣な物言いの長女は、オレに似たのだろうか。
それから1時間ほどして、野菜サラダとたらこスパゲッティが食卓に並んだ。
「ほら、起きろハナ。
優美が夕飯作ってくれたぞ。」
「お、さすが私の娘。
助かるー。」
娘が作るスパゲッティの味は、娘の優美にとっては祖母の味をしっかり継承していて、美味しかった。
「そういえば、ミツ。
私たち宛てに、航空券が届いてたの。
8月9日から5日間。
何か心当たり、ある?」
手渡された航空券には、きちんとオレたちの名前が印字されていた。
航空券と共に同封されていた手紙を、ハナと一緒に読む。
「そういうことか!
粋なことするねぇ、さすが幼なじみ。」
『ハナ
ミツ
活躍はテレビのニュースでたまに見ているが、元気か?
3年前にもう1人、出産したときにお祝いとして食事行って以来、顔を合わせてないな。
仕事に育児に、疲れてるだろ。
たまには、あの頃の仲間で、それぞれの子供も連れてパーッと騒ごうぜ。
どうせ仕事を詰め込んでいるだろうお前たちのことだ、いい息抜きになるだろ。
ってことで、グアム行きの航空券を同封してある。
この時間の飛行機に乗れるように、空港に集合だ。
滞在先は、宝月グループの別荘にしてる。
温水プールもあるから、水着やら浮き輪やら、忘れるなよ!
レン』
「優美。
いつもありがとう。
助かってる。
今年の夏休みは、思い切って羽伸ばしに、海外旅行行こうか!
頑張って仕事片付けて、休みもぎ取るわ。
前々から、お母さんたちの幼なじみとかお友達を見てみたい、って言っていたわよね?
今年の夏休みに会えるわよ。」
「わーい!
皆、優美よりはお姉さんなんでしょ?
会えるの嬉しいな!」
「終業式終わったら、駅で待ち合わせて、グアムに向けて水着買いに行こうか?
優華も連れて。
これも、夏休みの宿題の作文の題材にはなるんじゃない?」
「うん、行く!」
母娘でわいわいしだした様子に、自然と笑みがこぼれる。
こういうのを、幸せというのだろう。
この幸せが続くように、オレがしっかりしなければな。
そんなことを思った。
この年の夏は、猛暑となっている。
「休みは労働者としての基本だ、休め、って言われてもねぇ。
依頼断ることになっちゃうし、それも困るんだよねぇ。」
弁護士になりたての頃のハナは、オレたちの母校の教授が所長をしている法律事務所で、あわあわしながら仕事を進めていた。
しかし、今ではもう、独立して立派な弁護士になっている。
自宅を改装して、自宅の隣に建てた離れが、弁護士事務所だ。
ハナは早めに事務所を閉めて、結婚式の2年後に生まれた長女、優美《ゆうみ》がそろそろ小学校から帰る頃なので、夕飯の支度をしている。
野菜を刻む音を心地よく聞いていると、ベビーベッドから泣き声がした。
「ごめん、ミツ!
ちょっと包丁お願い!
優華、寝てたのに起きちゃったみたい!」
優華《ゆうか》というのはオレとハナの2人目の子供の名前だ。
3年前に誕生したばかりだ。
オレも検察官の仕事をしており、激務だ。
今日は珍しく休日をもぎ取れた。
なかなか夜の時間が取れなかったせいで、1人目と2人目の年齢差がこんなにも離れてしまった。
「ただいま。」
「おお、優美。
おかえり。」
「あれ?
お父さんが台所にいるの、珍しいね?
お母さんは優華見てる感じ?」
ランドセルをソファーに放って、洗面所で手を洗うと、優美はオレの隣に立つ。
「もう!
お湯!
吹きこぼれてるじゃん!
ちゃんと見てってば!
もういいよ、お父さん!
私が野菜切る!」
そう言って、優美は包丁をオレの手から奪って手際よく野菜を切り始めた。
「あら、優美。
おかえり。
どうだった?学校は。」
「別に普通だよ。
授業は予習してあったから知ってることばっかりでつまんなかったし。
明後日には終業式なの、気が楽よ。
っていうか、お母さんは寝てなよ!
優華の世話で手いっぱいでろくに寝れてないんでしょ?」
「優美だけに夕飯の支度任せちゃうのはねぇ。
ちょっと申し訳ないわ。」
「依頼人抱えてる敏腕弁護士でしょ?
お母さんが風邪引いたらどうするの?
いいから寝てて!
お父さん!
ボーッとお母さんを見つめてないで、パスタ茹でてよ!」
時に辛辣な物言いの長女は、オレに似たのだろうか。
それから1時間ほどして、野菜サラダとたらこスパゲッティが食卓に並んだ。
「ほら、起きろハナ。
優美が夕飯作ってくれたぞ。」
「お、さすが私の娘。
助かるー。」
娘が作るスパゲッティの味は、娘の優美にとっては祖母の味をしっかり継承していて、美味しかった。
「そういえば、ミツ。
私たち宛てに、航空券が届いてたの。
8月9日から5日間。
何か心当たり、ある?」
手渡された航空券には、きちんとオレたちの名前が印字されていた。
航空券と共に同封されていた手紙を、ハナと一緒に読む。
「そういうことか!
粋なことするねぇ、さすが幼なじみ。」
『ハナ
ミツ
活躍はテレビのニュースでたまに見ているが、元気か?
3年前にもう1人、出産したときにお祝いとして食事行って以来、顔を合わせてないな。
仕事に育児に、疲れてるだろ。
たまには、あの頃の仲間で、それぞれの子供も連れてパーッと騒ごうぜ。
どうせ仕事を詰め込んでいるだろうお前たちのことだ、いい息抜きになるだろ。
ってことで、グアム行きの航空券を同封してある。
この時間の飛行機に乗れるように、空港に集合だ。
滞在先は、宝月グループの別荘にしてる。
温水プールもあるから、水着やら浮き輪やら、忘れるなよ!
レン』
「優美。
いつもありがとう。
助かってる。
今年の夏休みは、思い切って羽伸ばしに、海外旅行行こうか!
頑張って仕事片付けて、休みもぎ取るわ。
前々から、お母さんたちの幼なじみとかお友達を見てみたい、って言っていたわよね?
今年の夏休みに会えるわよ。」
「わーい!
皆、優美よりはお姉さんなんでしょ?
会えるの嬉しいな!」
「終業式終わったら、駅で待ち合わせて、グアムに向けて水着買いに行こうか?
優華も連れて。
これも、夏休みの宿題の作文の題材にはなるんじゃない?」
「うん、行く!」
母娘でわいわいしだした様子に、自然と笑みがこぼれる。
こういうのを、幸せというのだろう。
この幸せが続くように、オレがしっかりしなければな。
そんなことを思った。



