オレは、ハナに悟られないよう、婚姻届にサインをさせて、なおかつクルーズ船での挙式を考えている。
昔、サプライズで挙式をした友佳ちゃんは、夫婦双方がサプライズだったが、今回は夫婦の片割れのみにサプライズを仕掛ける。
宝月夫婦以外にも、子育ての合間を縫って、話し合いに協力してもらっている。
「ありがとう。
皆、子育てで忙しいだろうに、こんな話し合いに参加してくれて、嬉しく思う。」
「何言ってるの!
私はハナの一番の親友っていう自負があるの。
喜んで協力するわ。」
そう言うのは、麗眞くんと同じ病院で、2日遅れで産まれた女の子、椎菜《しいな》を背中に背負う、菜々美ちゃんだ。
「そうそう、ピアノが不可欠でしょうし、私も弾くわ。」
妻の有海ちゃんに無茶するなよ、と言いながらその腕に娘の琥珀《こはく》を抱くのは奈斗。
膝の上で眠っている娘の深月《みづき》を撫でているのは由紀ちゃんだ。
こういうサプライズの仕掛け人には心理学に精通している人が必要だから協力する、と胸を叩いていた。
走り回るやんちゃな息子、成司《せいじ》を静かにしろと嗜める友佳ちゃんと一成。
「こら、成司!
ごめんね、騒がしくて。
同い年の彩ちゃんを見習いなさい。
成司も、彩ちゃんの隣でお行儀よく座ってくれたら、パパは嬉しいんだが。」
親指と人差し指で丸を作った由紀ちゃん。
心理学的に、良い接し方だったようだ。
決行は、オレとハナが通う大学の卒業式が終わった1週間後だ。
「任せろ、幼なじみには最高の挙式をプレゼントするぜ。」
オレは、司法試験に受かって、大学も無事に卒業出来たご褒美、として、レンがクルージングに連れて行ってくれる、と言って彼女を連れ出すことにした。
こう言え、と言ったのは由紀ちゃんだ。
ご褒美、というとまず喜びが先行するから、疑ったり訝しがったりされることはない、ということのようだった。
「レンもメイちゃんも、麗眞くんのお世話で手いっぱいでしょ?
そんな暇あるの?」
「クルージングの船が停まってる場所に行けばいいってさ。
招待した本人がその場にいるとは限らないだろう?
アイツのことだ、武田さん辺りをオレたちの案内役にしている可能性もある。」
幼なじみはこういう時に便利だ。
オレがそう言うと、それ以上彼女は何の疑問も口にしなかった。
その日の朝、彼女に例の紙を差し出す。
「これにサインしてくれ、だって。
証人欄に、今日のクルージングの招待者の名前も入ってるだろ?」
「え、ちょっと、ミツ……
これ、って……」
「……読めない?
婚姻届、って。
司法修習生は集団で講義受けるんだ、変な虫に寄り付かれちゃ困る。
だからその前に、婚約者じゃなくて、名実ともにオレの妻になってほしい。」
「……ミツ、ずるいよ……
言われなくてもサインするって……
突然すぎて、心の準備できないよ……」
ハナの大きな黒い瞳から、涙が一粒零れた。
「……あーあ。
可愛い奥さん泣かせちゃった。
ごめん。
クルージングは夕方16時30分からだけどさ、それまで寄るところ2ヶ所あるんだ。
急がないと間に合わないから、早くサインを。
可愛い奥さん。」
……こういうとき、彼女は凝り性だ。
間違えないように、鉛筆で薄く下書きをしてから、その上からペンで書く。
「出来た!」
そういう彼女の頭を撫でて、前開きのドット柄ワンピースと赤いカーディガンを着せる。
オレが車を運転して、役所に向かった。
数分待たされたあと、あっけなく受理された婚姻届。
これで、正式に夫婦となったのだ。
「はい、チーズ!」
写真を撮って貰うのは恥ずかしかったが、これも記念だ。
写真を撮って貰ってから、お腹が空いたという彼女を連れて、上質な洋食を2人で食べる。
「……ありがと。
でも、本当に、このタイミングでいいの?
入籍。」
「いいの。
オレらの地頭の良さは、法学部の教授お墨付きだっただろうが。
しかも、お前が内定貰った法律事務所、メイちゃんの向こうでの友人の親らしいじゃん。
これも縁、ってことだよ。
オレは、難関って言われる試験合格して、それでもいろいろ机にかじりついて勉強してる努力家な奥さんが好きなの。
ちゃんと安心させてやらなきゃな、って思ったから、覚悟を決めたよ。」
「……優作。
ううん、ミツ、ありがと。
本当に、いい旦那さん持てて幸せ。」
実はこの洋食屋は、結婚指輪を予約した店の3つ隣にあるのだ。
彼女が席を外した隙に、予約した時間になったため、指輪を受け取りに行った。
代金は、すでに払われていた。
俺が6割、残りの4割はこの間話し合いをした、オレたちの仲間からのプレゼントのようだ。
子育てに追われる中、少しずつお金を出し合ってくれたようだ。
優しすぎるだろ、アイツら。
それを車の後部座席に積むと、ついでに会計を済ませていたので、彼女を連れて洋食屋さんを出た。
昔、サプライズで挙式をした友佳ちゃんは、夫婦双方がサプライズだったが、今回は夫婦の片割れのみにサプライズを仕掛ける。
宝月夫婦以外にも、子育ての合間を縫って、話し合いに協力してもらっている。
「ありがとう。
皆、子育てで忙しいだろうに、こんな話し合いに参加してくれて、嬉しく思う。」
「何言ってるの!
私はハナの一番の親友っていう自負があるの。
喜んで協力するわ。」
そう言うのは、麗眞くんと同じ病院で、2日遅れで産まれた女の子、椎菜《しいな》を背中に背負う、菜々美ちゃんだ。
「そうそう、ピアノが不可欠でしょうし、私も弾くわ。」
妻の有海ちゃんに無茶するなよ、と言いながらその腕に娘の琥珀《こはく》を抱くのは奈斗。
膝の上で眠っている娘の深月《みづき》を撫でているのは由紀ちゃんだ。
こういうサプライズの仕掛け人には心理学に精通している人が必要だから協力する、と胸を叩いていた。
走り回るやんちゃな息子、成司《せいじ》を静かにしろと嗜める友佳ちゃんと一成。
「こら、成司!
ごめんね、騒がしくて。
同い年の彩ちゃんを見習いなさい。
成司も、彩ちゃんの隣でお行儀よく座ってくれたら、パパは嬉しいんだが。」
親指と人差し指で丸を作った由紀ちゃん。
心理学的に、良い接し方だったようだ。
決行は、オレとハナが通う大学の卒業式が終わった1週間後だ。
「任せろ、幼なじみには最高の挙式をプレゼントするぜ。」
オレは、司法試験に受かって、大学も無事に卒業出来たご褒美、として、レンがクルージングに連れて行ってくれる、と言って彼女を連れ出すことにした。
こう言え、と言ったのは由紀ちゃんだ。
ご褒美、というとまず喜びが先行するから、疑ったり訝しがったりされることはない、ということのようだった。
「レンもメイちゃんも、麗眞くんのお世話で手いっぱいでしょ?
そんな暇あるの?」
「クルージングの船が停まってる場所に行けばいいってさ。
招待した本人がその場にいるとは限らないだろう?
アイツのことだ、武田さん辺りをオレたちの案内役にしている可能性もある。」
幼なじみはこういう時に便利だ。
オレがそう言うと、それ以上彼女は何の疑問も口にしなかった。
その日の朝、彼女に例の紙を差し出す。
「これにサインしてくれ、だって。
証人欄に、今日のクルージングの招待者の名前も入ってるだろ?」
「え、ちょっと、ミツ……
これ、って……」
「……読めない?
婚姻届、って。
司法修習生は集団で講義受けるんだ、変な虫に寄り付かれちゃ困る。
だからその前に、婚約者じゃなくて、名実ともにオレの妻になってほしい。」
「……ミツ、ずるいよ……
言われなくてもサインするって……
突然すぎて、心の準備できないよ……」
ハナの大きな黒い瞳から、涙が一粒零れた。
「……あーあ。
可愛い奥さん泣かせちゃった。
ごめん。
クルージングは夕方16時30分からだけどさ、それまで寄るところ2ヶ所あるんだ。
急がないと間に合わないから、早くサインを。
可愛い奥さん。」
……こういうとき、彼女は凝り性だ。
間違えないように、鉛筆で薄く下書きをしてから、その上からペンで書く。
「出来た!」
そういう彼女の頭を撫でて、前開きのドット柄ワンピースと赤いカーディガンを着せる。
オレが車を運転して、役所に向かった。
数分待たされたあと、あっけなく受理された婚姻届。
これで、正式に夫婦となったのだ。
「はい、チーズ!」
写真を撮って貰うのは恥ずかしかったが、これも記念だ。
写真を撮って貰ってから、お腹が空いたという彼女を連れて、上質な洋食を2人で食べる。
「……ありがと。
でも、本当に、このタイミングでいいの?
入籍。」
「いいの。
オレらの地頭の良さは、法学部の教授お墨付きだっただろうが。
しかも、お前が内定貰った法律事務所、メイちゃんの向こうでの友人の親らしいじゃん。
これも縁、ってことだよ。
オレは、難関って言われる試験合格して、それでもいろいろ机にかじりついて勉強してる努力家な奥さんが好きなの。
ちゃんと安心させてやらなきゃな、って思ったから、覚悟を決めたよ。」
「……優作。
ううん、ミツ、ありがと。
本当に、いい旦那さん持てて幸せ。」
実はこの洋食屋は、結婚指輪を予約した店の3つ隣にあるのだ。
彼女が席を外した隙に、予約した時間になったため、指輪を受け取りに行った。
代金は、すでに払われていた。
俺が6割、残りの4割はこの間話し合いをした、オレたちの仲間からのプレゼントのようだ。
子育てに追われる中、少しずつお金を出し合ってくれたようだ。
優しすぎるだろ、アイツら。
それを車の後部座席に積むと、ついでに会計を済ませていたので、彼女を連れて洋食屋さんを出た。



