ボーダー

ライトグレーのピンストライプジャケットに、中のブラウスはピンクギャザー。
グレーのタイトスカート。
幼なじみのスーツ姿は新鮮だ。

車に乗り込むときは着ていたベージュのトレンチコートは脱いでいる。

幼なじみかつ婚約者に愛されている証なのだろうか、少しサイズアップした気がする膨らみに目がいかないように気をつけないとな。

運転どころじゃなくなる。

「ハナ、似合ってる。
仕事デキる同僚とランチ行く、みたいな気分にさせてくれて、ありがと。」

「幼なじみに褒められてる、って解釈でいい?
ありがと。

……ところで、車のナンバー、なんでその数字なの?
ほ、は宝月グループのほだと思うけど。」

「11月25日はレンの誕生日だろ?
メイちゃんは、6月18日だ。
1125と618を足した数字が、車のナンバーの数字、というわけだ。
ほ、という数字と合わせて、宝月グループがこれから築いていく礎を表すというわけだな。

考えたのは武田さんだろう。
いいセンスだ。

大事に乗れよ。」

「2人が合わさって夫婦ですよ、って意味も込めてるね、多分。
数字を引くでもいいはずなのに、わざわざ足すことを選んでいるのは、多分そういうことでしょうから。」

「お前ら乗せて良かったわ。
ナンバープレートの数字の意味、分からず練習に使ってたからさ。」

「しかし、入学式初日からこんなことになって災難だな。」

「夢の電車通学!って楽しみにしてたのに、初っ端から出鼻くじかれた感じ。

人身事故だけならまぁ仕方ないか、ってなったけど、信号機故障とはね。」

グレーのスーツの手が、彼女の手をそっと握った。

「まぁまぁ、いいじゃん。
そのおかげで、こうして少しの間、幼なじみ3人で、昔みたいに過ごせるんだ。

この時間、大事にしないとな。

レンに子供が産まれたら、こんな時間はほとんど取れないだろうから。」

さすがは幼なじみだ。
言うことが的確すぎる。

「オレも嬉しいぜ。
お前らと一緒にいれてな。」

そう言って、飛ばせるところは飛ばして、信号ではしっかり止まりながら、うまく混雑する道を避けて、1時間ほど車を走らせる。

『目的地周辺です。
ガイドを終了します。』

ハナとミツが通う大学の最寄り駅に到着した。

「ここでお別れだな。
……頑張れよ。
何かあったら連絡してこい。

困ったことがあったら、金とコネと権力を最大限に利用して解決してやるから。」

「文化祭、来てね!
招待するわ。」

「待ってるよ。」

ベージュのトレンチコートを羽織ったハナは、スーツに合わせたグレーとベージュを足して2で割ったような色のパンプスを、何度も見比べている。

「ね、おかしくないかな?」

「大丈夫、似合ってるよ。」

オレは、ミツとハナの腕を引っ張り、近くを通った人にカメラを渡した。
ミツとハナの間にオレが入る。

シャッターが押されると、ありがとうございます、とオレは微笑んでカメラを受け取った。

「3人で撮るの自体久しぶりで、しばらくないかもしれないからさ。
写真、現像出来たら渡す。」

「サンキュ。レン。
これ、お礼だ。
多少なりとも使わなくてよかった燃料をオレたちのために使ってくれたんだ。
幼なじみである前に、人間としてこれくらいはするべきだろ。」

ミツはオレに、1000円札を手渡してきた。

「ミツ、今度3人で、時間があるときに飯でも行こうぜ。
それでチャラだ。

バイトもしてる学生の1000円は貴重なんだ。
おいそれと出させねぇよ。」

「助かる。」

ミツにそう言って、早く行くように促す。

この駅から同じ方向に向かっている人がたくさんいるから、その人たちについて行けば迷わないはずだ。

「行ってくる。」

「ありがとね、レン!
メイちゃんによろしく!」

Vサインをする2人に、オレもVサインを返す。

何かあったら困ると、どちらかから連絡が来るまで、駅にあるカフェでコーヒーを味わうことにした。

4月といえど、冷える日もある。
そんなときに、熱いコーヒーは身体に染み渡った。

ミツから、大学の正門前で撮られた写真と共に無事に辿り着けた旨のメールが届いた。

写真におさめられている婚約者カップルを見てみる。
さり気なくお揃いになっているのが絶妙だな、と思う。
ミツはライトグレーの無地スーツに、サックス色をしたストライプのボタンダウンシャツ。
レジメンタルタイがしっかり巻かれている。

2人ともスーツのジャケットはライトグレーの色味だし、色こそ反対なもののストライプのシャツだ。

なるほど、2人らしいチョイスだ。

写真を眺めると、携帯を閉じて、宝月邸に帰るべく、車に乗り込んだ。

ハンドルを握りながら、先ほどまで2人が乗っていた後部座席にほんの一瞬、目をやる。

夢への一歩を踏み出した彼らにエールを送るため、近いうちにランチかディナーに誘うか、と思ったのだった。