〈奈斗side〉
友佳ちゃんと一成に内緒で計画したサプライズの宴は終わった。
ゲストが帰るまでピアノを弾いているのは、オレの恋人だ。
ゲストが帰ったのを見やって、演奏を止めて小さく息を吐いた。
「お疲れ様、有海。
有海の弾くピアノ、綺麗でいつまでも聴いてられそう。」
「ありがと。
奈斗も、和貴くんもお疲れ様!
司会、良かったよ?」
にこやかに笑いかける有海。
笑顔は可愛いが、何かムカつく。
オレ以外の男に、そんな笑顔を見せるな。
頑張れ、と言わんばかりにオレの肩を叩いた和貴は、有海ちゃんを椅子に座らせる。
椅子に置いてある小箱は、有海にきちんと持っていてもらう。
後は任せろ、と小声で言う和貴。
会場の照明を消えて、スポットライトだけになる。
スポットライトに照らされるピアノと、ピアノの右後ろに座る恋人。
楽譜だけ置くと、ゆっくり息を吐いて呼吸を整えてから、練習したとおりに、エルガーの『愛の挨拶』を弾いていく。
エルガーが、後に妻になる女性に、婚約のお祝いとして作った曲だという。
オレも、この曲を作ったその人にあやからせてもらう。
自信がないところだけは楽譜を見たが、それ以外はほとんど見ていない。
上手く弾き切ると、一礼して、拍手をしてくれる有海。
そんな彼女に、オレが弾くときに使っていた楽譜を渡した。
首を傾げながら楽譜を開く彼女。
もう、楽譜はちゃんと糊で貼り付けなよ、と言う彼女の言葉が、途中で止まる。
そりゃそうだ。
楽譜を糊で貼っていないのはわざとなのだ。
楽譜の裏に、『エルガーが婚約の際に弾いたこの曲がちゃんと弾けたら、オレと同じ苗字になってください。』と書かれているから。
「ピアノ奏者の有海なら、この曲の逸話、わかるよね?
それになぞらえて、オレも真似してみた。
意味、伝わった?
今、座ってる椅子置いてあった小箱、ちょっと貸してくれる?
オレが開けたい。」
小箱をそっと開けて中身を見せる。
中身はもちろん、婚約指輪だ。
彼女の瞳が見開かれて、そこからはゆっくり涙が伝っている。
「え、ちょっと……。
これ、いつの間に用意したの……?
ってか、こんなの、どこで練習したのよ……
私で、いいの?」
「有海しか興味ないし、一生かけて愛せない。
……改めて言う。
有海。
……オレと結婚してください。」
不意に有海がピアノの前に歩み出て、立ったまま弾いたのはベートーヴェンの歓喜の歌。
「私の気持ちが曲のタイトルとピッタリだったから弾いた。
あとは、薬指に婚約指輪着けないで弾く最後の演奏になるから。
ありがとう、奈斗。
苦労かけちゃうし、寂しくさせちゃうけど、私を奈斗と一緒の苗字にしてください。
こちらこそ、よろしくお願いします。」
照れたように笑う有海が可愛くて、彼女の柔らかい唇にキスをした。
ありがとう、という意味を込めて、彼女の身体を抱き上げた。
「プロポーズ後の余韻に浸るのは待っててくれるか?」
入ってきたのは、遠藤さんだ。
オレが、向こうで受けている更生プログラムを考えて、実行してくれている男性。
その人の口から出たのは、想定外の言葉だったのだ。
「合格だ。
……奈斗。」
「合格、って何がですか?」
「もう、更生施設に足を踏み入れる必要はないということだよ。
合格だ。
この、蓮太郎の挙式も更生プログラムの一環だった。
司会のサポートも堂々とやってのけていた姿、立派だったぞ。
アクターズスクールの先生からも、スクールは今月で卒業で良い、というお墨付きをもらっている。
アクションを覚えるスピードの目覚ましさに舌を巻いていらしたぞ。
どうするかは、婚約者になったばかりの彼女と話し合うことを薦める。
もちろん、協力はするから、どんな形になるか報告だけは欲しい。
待ってるよ。
荷物持って、準備しろ?
蓮太郎の執事の武田さんが送迎してくれるそうだ。」
遠藤さんは、それだけ言うと、手を振りながら会場から出ていった。
「……ね、奈斗。
私で、ホントにいいの?
結婚式、できるとしたら、どんな形になっても音大卒業して、ピアニストとして生計立てられる目処が立ったら、になるよ?
待たせちゃうよ?
それでも、いいの?」
コイツ、オレと離れ離れになる前の空港でも似たようなこと言ってなかったか?
「オレは有海だからいいの。
いくらでも待つよ?
可愛くてピアノ上手で美人な婚約者が、ちゃんとオレの奥さんになってくれるならね。
それまでに、オレもこっちで俳優やって稼いでおくよ。
挙式のためにね。
分かったら、待たせちゃうとか言わないの。
いいね、有海。」
返事の代わりだろうか。
オレに抱きついて、深く唇を重ねてきた。
軽く舌を絡めてやる。
「武田さん、待たせちまうな。
そろそろ用意しようぜ。
続きは今夜、な?」
オレは有海の分まで荷物を持ってやると、宝月夫妻と、将輝と共に、武田さんが運転する車に乗り込んだ。
友佳ちゃんと一成に内緒で計画したサプライズの宴は終わった。
ゲストが帰るまでピアノを弾いているのは、オレの恋人だ。
ゲストが帰ったのを見やって、演奏を止めて小さく息を吐いた。
「お疲れ様、有海。
有海の弾くピアノ、綺麗でいつまでも聴いてられそう。」
「ありがと。
奈斗も、和貴くんもお疲れ様!
司会、良かったよ?」
にこやかに笑いかける有海。
笑顔は可愛いが、何かムカつく。
オレ以外の男に、そんな笑顔を見せるな。
頑張れ、と言わんばかりにオレの肩を叩いた和貴は、有海ちゃんを椅子に座らせる。
椅子に置いてある小箱は、有海にきちんと持っていてもらう。
後は任せろ、と小声で言う和貴。
会場の照明を消えて、スポットライトだけになる。
スポットライトに照らされるピアノと、ピアノの右後ろに座る恋人。
楽譜だけ置くと、ゆっくり息を吐いて呼吸を整えてから、練習したとおりに、エルガーの『愛の挨拶』を弾いていく。
エルガーが、後に妻になる女性に、婚約のお祝いとして作った曲だという。
オレも、この曲を作ったその人にあやからせてもらう。
自信がないところだけは楽譜を見たが、それ以外はほとんど見ていない。
上手く弾き切ると、一礼して、拍手をしてくれる有海。
そんな彼女に、オレが弾くときに使っていた楽譜を渡した。
首を傾げながら楽譜を開く彼女。
もう、楽譜はちゃんと糊で貼り付けなよ、と言う彼女の言葉が、途中で止まる。
そりゃそうだ。
楽譜を糊で貼っていないのはわざとなのだ。
楽譜の裏に、『エルガーが婚約の際に弾いたこの曲がちゃんと弾けたら、オレと同じ苗字になってください。』と書かれているから。
「ピアノ奏者の有海なら、この曲の逸話、わかるよね?
それになぞらえて、オレも真似してみた。
意味、伝わった?
今、座ってる椅子置いてあった小箱、ちょっと貸してくれる?
オレが開けたい。」
小箱をそっと開けて中身を見せる。
中身はもちろん、婚約指輪だ。
彼女の瞳が見開かれて、そこからはゆっくり涙が伝っている。
「え、ちょっと……。
これ、いつの間に用意したの……?
ってか、こんなの、どこで練習したのよ……
私で、いいの?」
「有海しか興味ないし、一生かけて愛せない。
……改めて言う。
有海。
……オレと結婚してください。」
不意に有海がピアノの前に歩み出て、立ったまま弾いたのはベートーヴェンの歓喜の歌。
「私の気持ちが曲のタイトルとピッタリだったから弾いた。
あとは、薬指に婚約指輪着けないで弾く最後の演奏になるから。
ありがとう、奈斗。
苦労かけちゃうし、寂しくさせちゃうけど、私を奈斗と一緒の苗字にしてください。
こちらこそ、よろしくお願いします。」
照れたように笑う有海が可愛くて、彼女の柔らかい唇にキスをした。
ありがとう、という意味を込めて、彼女の身体を抱き上げた。
「プロポーズ後の余韻に浸るのは待っててくれるか?」
入ってきたのは、遠藤さんだ。
オレが、向こうで受けている更生プログラムを考えて、実行してくれている男性。
その人の口から出たのは、想定外の言葉だったのだ。
「合格だ。
……奈斗。」
「合格、って何がですか?」
「もう、更生施設に足を踏み入れる必要はないということだよ。
合格だ。
この、蓮太郎の挙式も更生プログラムの一環だった。
司会のサポートも堂々とやってのけていた姿、立派だったぞ。
アクターズスクールの先生からも、スクールは今月で卒業で良い、というお墨付きをもらっている。
アクションを覚えるスピードの目覚ましさに舌を巻いていらしたぞ。
どうするかは、婚約者になったばかりの彼女と話し合うことを薦める。
もちろん、協力はするから、どんな形になるか報告だけは欲しい。
待ってるよ。
荷物持って、準備しろ?
蓮太郎の執事の武田さんが送迎してくれるそうだ。」
遠藤さんは、それだけ言うと、手を振りながら会場から出ていった。
「……ね、奈斗。
私で、ホントにいいの?
結婚式、できるとしたら、どんな形になっても音大卒業して、ピアニストとして生計立てられる目処が立ったら、になるよ?
待たせちゃうよ?
それでも、いいの?」
コイツ、オレと離れ離れになる前の空港でも似たようなこと言ってなかったか?
「オレは有海だからいいの。
いくらでも待つよ?
可愛くてピアノ上手で美人な婚約者が、ちゃんとオレの奥さんになってくれるならね。
それまでに、オレもこっちで俳優やって稼いでおくよ。
挙式のためにね。
分かったら、待たせちゃうとか言わないの。
いいね、有海。」
返事の代わりだろうか。
オレに抱きついて、深く唇を重ねてきた。
軽く舌を絡めてやる。
「武田さん、待たせちまうな。
そろそろ用意しようぜ。
続きは今夜、な?」
オレは有海の分まで荷物を持ってやると、宝月夫妻と、将輝と共に、武田さんが運転する車に乗り込んだ。



