ボーダー

控室に戻るなり、腹痛とかはないか、一言私に尋ねた蓮太郎。

ないと答えると、ひょいと抱き上げられた。

今されているのは、正真正銘のお姫様抱っこ、というやつだ。
実際にされたことは片手で数えられるくらいしかないが、それでも緊張する。

「メイ、奥さんがメイで良かった。
最高すぎる、オレの愛しい奥さん。
愛してる、メイ。

……さっきは出来なかったから、いい?」

私が返事をする前に、深いキスをされる。

舌が絡み合う音が誰もいない控室に響いて、何だかイケないことをしている気分だ。

「……ちょっと、怖かったし、判定欄の赤線見たときも半信半疑だった。
実は今もまだ。

沖縄旅行の時の友佳ちゃんの気持ち、今ならちゃんと分かる。

家族増やせるのは、本当に嬉しいの。

病院行って、おめでとうございます、って言われてから実感するのかな。」

「……そうかもな。
行くなら言ってね?
オレも行く。

危なっかしくて、1人にしておけないよ。

メイ、っていう守るべき奥さんもいて、十月十日後には、オレとメイの子どもも、しっかり守らなくちゃいけないんだな。
まだ、実感ないや。

ありがとう、メイ。
オレとメイの可愛い赤ちゃんをお腹に宿してくれて、最高すぎるなんて言葉じゃ足りない。

頼りないかもしれないけど、メイの負担を減らせるように頑張るから。

……人材育成も急がないとだし。」

そこで言葉を切って、私に向き直りながら言った。

「……着替えようか。
何なら手伝う?」

「……大丈夫。」

そう言いながら、着ているロイヤルブルーのドレスを脱いだ。
下はペチコートパンツ、上はキャミソールになった私をじっと見つめた蓮太郎は、言った。

「お腹に赤ちゃんいるなんて、オレも検査薬見てはいるけど不思議な感じ。
見た目は普段と変わらないメイなのに。」

優しく、お腹を撫でるように触れて、彼は言った。
そっと私のお腹に唇を落とすと、早くドレス着ないとお腹冷やしちゃうな、と言う蓮太郎。

かなり明るい、アイシーブルーのワンピースを着る。
こんな明るい青は着たことがなかった。
確かにこんな青も新鮮だ。
シルバーのピアスはそのままで、ヒールの高いネイビーのパンプスを履く。

バックにレースとリボンがついて、タックスカートになっているため、広がりすぎず、立ったり座ったりしても気にならなそうだ。

メイ、と呼びかけられて、もう一度深いキスをされる。
強く抱きしめられる。

「可愛い奥さん。
後ろ姿、色っぽくて好き。
ちゃんと母親は可愛くて色っぽいんだって、今から教え込んどかないとな。」

身体が解放されて、脇のファスナーも上げられている。

抱きしめてくれたのはついでだったの?

「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。
お礼は2人目の予約、でいいよ?」

んも、蓮太郎ったら!

グレーのスーツに、私と合わせたアイシーブルーのネクタイをした彼。

そっとネクタイの曲がりを直したあと、軽く唇を重ねた。

『プランSの関係者さんー!
今からロビーに集合だよ!
亜子さんとヘアメイクさんが、いまお二人にサプライズとして、目隠ししながらドレスとタキシード着せてるところだから!』

ピンマイクから聞こえるのは、ハナちゃんの声だ。

あ、レンとメイちゃん、安心してね!
メイちゃんには、ほとんど座っててもらうし。
あと、もちろん友佳にもね!』

「行こうぜ、メイ。」

自然に手を絡めて、ロビーに向かった。
そして、ロビーに着くと、皆から小さく拍手をされた。

「おめでとー!」

「さすが、沖縄旅行で孕ませる宣言してただけあるよな、レン。
有言実行じゃん。」

「こら、ミツ!
話が下世話だぞ!
こういう話は後で!」

「サプライズでわけもわからずタキシードとウエディングドレスを着せられている2人が入場してきたところを、皆で祝福する。

披露宴で、結婚式の誓いの言葉と誓いのキスをする形になるね。
長時間のドレスは、お腹に負担だから。

亜子さんも、それでOK、って。
彼女の後輩ちゃんは不服そうだったけど。

ごめんね、有海。
また、結婚行進曲お願いしちゃうね。」

「それはいいの!
大丈夫。
慣らしでさっき革命も弾いたし!」

「司会進行はアナウンサー志望の和貴くん。
補佐として奈斗くん、隣にいてくれる?

麻紀と真くんは、料理運ぶときの補佐、お願いね。
スムーズに料理運べるように位置とか教えてあげて。

サプライズゲスト2人の誘導は、由紀と将輝くんにお願いね!」

次々と役割分担を告げていくハナちゃん。

「レンとメイちゃん、挙式の先輩として、結婚指輪を渡してあげて?
お願いできるかな。
あと、レンにはカメラ係もお願い!
さっき散々撮られたでしょ?
その逆をやればいいの!」

「……分かったわ。」

わざとカメラ係を蓮太郎だけに任せたのは、万が一にも身体に負担をかけないためか。

「ハナとミツは、会場全体を俯瞰するオブザーバー、ってところだな。
お前ららしいよ。
きっと成功させようぜ。」

皆で、円陣を組んで、手を重ねる。

「ファイト、オー!」

絶対に上手くいく。
これだけ準備してるんだもの。

私の気持ちが伝わったかのように、肩を叩いてくれたのは蓮太郎、愛しの旦那さんだ。

「絶対成功する。
そんな不安そうな顔するな?
子供にそんな顔見せる気?」

「イチャつかない、そこ!」

ハナちゃんに注意されると、和やかな空気が周囲を包んだ。